第二章 予兆

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 綾子の声はどこまでもあっけらかんとしていた。  彼女にとっては、人間は殺すか利用するかの二択しかない。血縁であろうとなかろうと、関係ないのだ。  ぶわぁっ……!  綾子の式神が、背後に大きな影を作る。まるで荒々しい獣のように。式神に描かれた五芒星を心臓としてうねりながら咆哮する。  いつの間にか周囲の通行人たちは消えていた。  つまり小夜たちが立っているのは、綾子の結界の内側ということだ。 (勝てる訳がないし、勝つ必要もない。ここから逃げて、それでいい)  小夜は自然と浮かんだ考えに驚く。 (……実家ですら、帰りたいと思ったことはなかったのに)  そして、歯を食いしばった。  しゅばっ!  小夜は式札符を虚空へ放つ。意志を持ったかのように舞い踊り、獣の影へと向かう式神。  腕を真っ直ぐ伸ばして、指先を己の式神へと向ける。 「〈青龍・白虎・朱雀・玄武・――ッ!」  九字は途中で遮られ、小夜は尻もちをついた。  獣の影が小夜を吹き飛ばしたのだ。  ぱっくりと大きく口を開けて、小夜とみつを丸飲みにしようとしている。  鋭利な牙が光る。処刑道具のような、獣の口。 (喰われる)  圧倒的な力の差があることは承知の上で挑んだ。  しかし、攻撃する機会も得られないままに呑まれようとしている。 (申し訳ありません、旦那様。みつさんを守れなかった……) 「小夜さんっ! 伏せてください!」
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