第二章 予兆

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 叫んだのはみつだった。  小夜が顔を上げるのと同時に、視界に入り込んだのは一羽の白鷺。 『小夜さんを死なせはしません』  みつの声は、白鷺から発せられていた。  神経を研ぎ澄ませていた小夜だったが、気を緩めてしまうほどの衝撃が走る。 「みつさん……あなた……」 (旦那様の式神だったなんて……!)  通常、式神というのは人間の視覚で認知することはできない。  しかしみつは街に出て買い物をしていた。  思業式神(しぎょうしきがみ)。  しかも意志があり自立しているということは、かなり上位の式神である。  白鷺は大きく羽ばたいた。そして、小夜と獣の影の間に浮く。 『へぇ。流石ね。この私でも式神だと気づけなかったなんて』  それでも綾子の声は弾んでいた。 『それで、どうするつもりなのかしら?』 『逃げます』  白鷺はきっぱりと言い切った。  小夜も我に返って、新たな式札を懐から取り出す。  みつの講じる策がどんなものかは分からないが、目指すものは同じ。  まずは綾子の結界から出なければならない。 『逃げられるものですか。あなたを捕らえて、芦屋茂彬の戦力を削がせてもらうわ』
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