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獣の影の咆哮。音のない風が吹く。
咆哮は結晶化して鱗のようになる。
その闇を払うのは、白鷺の翼だ。
綾子の結界中、散った無数の闇に光が反射して虹色に煌めく。
小夜は腕で顔を覆いつつも視線を逸らさないよう努める。
(みつさん、強い……! わたしなんかよりも、ずっとずっと)
それは綾子も感じているようだった。
『式神のくせになかなかやるわね。これならどうかしら?』
闇の欠片は綾子の号令の下、ぴたりと止まった。
そして一斉に白鷺へと向かう。
ぴっ。
そのうちいくつかは小夜の肌を掠めていき、血が滲む。
「みつさん!」
小夜は式札を放った。
(わたしの式神がある程度綾子の攻撃を喰らえば、みつさんへ届く分が減るはず)
その目論見は半分正解で、半分不正解だった。
小夜の力ではほんの僅かしか叶わない。
甲高い悲鳴。
白鷺はあっという間に朱に染まり、落下する――
そのとき、結界に易々と伸びてきたのは、二本の腕だった。
「〈青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女〉」
低く研ぎ澄まされた九字。
腕はそのまま、血まみれの白鷺を受け止めた。
「ご苦労だった、みつ」
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