第二章 予兆

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 獣の影の咆哮。音のない風が吹く。  咆哮は結晶化して鱗のようになる。  その闇を払うのは、白鷺の翼だ。  綾子の結界中、散った無数の闇に光が反射して虹色に煌めく。  小夜は腕で顔を覆いつつも視線を逸らさないよう努める。 (みつさん、強い……! わたしなんかよりも、ずっとずっと)  それは綾子も感じているようだった。 『式神のくせになかなかやるわね。これならどうかしら?』  闇の欠片は綾子の号令の下、ぴたりと止まった。  そして一斉に白鷺へと向かう。  ぴっ。  そのうちいくつかは小夜の肌を掠めていき、血が滲む。 「みつさん!」  小夜は式札を放った。   (わたしの式神がある程度綾子の攻撃を喰らえば、みつさんへ届く分が減るはず)  その目論見は半分正解で、半分不正解だった。  小夜の力ではほんの僅かしか叶わない。  甲高い悲鳴。  白鷺はあっという間に朱に染まり、落下する――  そのとき、結界に易々と伸びてきたのは、二本の腕だった。 「〈青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳(こうちん)・帝台・文王・三台(さんたい)玉女(ぎょくにょ)〉」  低く研ぎ澄まされた九字。  腕はそのまま、血まみれの白鷺を受け止めた。 「ご苦労だった、みつ」
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