第二章 予兆

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 さらさら……。  白鷺が砂状になって消えると同時に現れたのは、まさしく芦屋茂彬だった。  小夜が見送ったときと同じ洋装。 「だ、旦那様……」  小夜は涙が出そうになるのを堪えて、唇を噛む。    茂彬は小夜へ視線を向けない。  その眼差しは凍りそうなほど鋭く、綾子の式神を見据えていた。 「藤田綾子か。会話するのは初めてだったか」 『さて、どうだったかしら』  細かな闇の欠片は再び空中で止まる。  綾子が攻撃の手を緩めたのではなくて、茂彬が止めているのだ。  その証拠に、欠片は僅かに震えている。 『ところで、どうやって堅物のお姉様を籠絡したのかしら?』  突然話を振られて、小夜は肩を震わせた。 『純潔でも奪ったのかしら? だとしたら、そちら方面の呪いを刻んでおけばよかったわ』 「あ、綾子さん、なんてことを……」 「妹君はだいぶ劣情的な人間のようだ」  ふぅ、と茂彬が息を細く吐き出した。  眉間に皺を寄せている。 「彼女はそのような対象ではない」  小夜ははっと顔を上げた。  同時に、ずきりと胸が痛むのを感じる。 (今、わたしはどうして……)  浮かんだ感情を振り払う。
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