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いつでも動けるように、と小夜は気を引き締める。
綾子とて、式神のみで茂彬を殺せるとは思っていないだろう。
(旦那様が現れた以上、ここでの戦いは長引かせないはず)
発言主である茂彬は一枚の呪符を取り出した。
縦四本と横五本からなる、格子。
はしばみ色の瞳が黄金に烈しく輝く。
「〈呪符退魔、急急如律令〉」
ごぉぅっ、と足元から巻き起こるのは、茂彬の圧倒的な力――
小夜が瞬きをした次の瞬間、周囲に色と音が戻ってきていた。
「逃げたか」
小夜の隣で茂彬が呟いた。その声に感情は見当たらない。
手にしていたのは、みつが抱えていた食材だった。
「だ、旦那様……」
どのように謝罪すべきか言葉を選ぶ小夜の顔色は悪い。
茂彬はようやく小夜へと視線を向けた。
そして、右手でそっと小夜の頬を拭った。
「……!」
「怪我をさせてしまったな。すまない」
茂彬の瞳の色は元のはしばみ色に戻っている。
「みつを戻すには少し時間が要る。今日の食事は私が作ろう」
「い、いえ、旦那様にさせる訳には」
うろたえる小夜。
改めて認識する。みつは、茂彬の式神だということを。
「ならば、一緒に作るか」
「……え?」
「みつが戻ってきたときに、驚かせてやるといい」
そう提案する茂彬の口元は、わずかに綻んでいた。
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