47人が本棚に入れています
本棚に追加
綾子がきらきらと瞳を輝かせる。
小袖だけではなく身に着けているすべてが新しくはりのある綾子。
妹と違って、小夜はところどころ掠れた鈍色の小袖で、髪の艶も悪い。珊瑚の髪飾りだけが眩しく目立つ。
暗殺者として有能な妹を、両親は当然のように可愛がって育ててきた。
しかし、姉妹仲が悪い訳ではない。ただただ、綾子は暗殺以外に興味がないのだった。
◆ ◆ ◆
(死んで……ない?)
瞳を開いた小夜が真っ先に認識したのは、見知らぬ天井だった。
「おや。目が覚めましたか?」
小夜の顔を覗き込んできたのは片眼鏡の青年。髪の毛は短く、口元に髭を蓄えている。軽妙な口調で矢継ぎ早に語りかけてきた。
「喋れますかね? どこか痛むところは? 貴女は三日三晩寝込んでいました。お腹が空いているでしょう? 内臓は弱っているでしょうから、粥でも用意させましょうかねぇ」
「それくらいにしておけ、春敬」
「おや、旦那。いつの間に」
闖入者を認識して、小夜は息を呑んだ。
(芦屋茂彬……! 暗殺に失敗したどころか、標的に助けられてしまった……!)
最初のコメントを投稿しよう!