第一章 選択

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 綾子がきらきらと瞳を輝かせる。  小袖だけではなく身に着けているすべてが新しくはりのある綾子。  妹と違って、小夜はところどころ掠れた鈍色の小袖で、髪の艶も悪い。珊瑚の髪飾りだけが眩しく目立つ。  暗殺者として有能な妹を、両親は当然のように可愛がって育ててきた。  しかし、姉妹仲が悪い訳ではない。ただただ、綾子は暗殺以外に興味がないのだった。    ◆ ◆ ◆ (死んで……ない?)  瞳を開いた小夜が真っ先に認識したのは、見知らぬ天井だった。 「おや。目が覚めましたか?」  小夜の顔を覗き込んできたのは片眼鏡(モノクル)の青年。髪の毛は短く、口元に髭を蓄えている。軽妙な口調で矢継ぎ早に語りかけてきた。 「喋れますかね? どこか痛むところは? 貴女は三日三晩寝込んでいました。お腹が空いているでしょう? 内臓は弱っているでしょうから、粥でも用意させましょうかねぇ」 「それくらいにしておけ、春敬(はるよし)」 「おや、旦那。いつの間に」  闖入者(ちんにゅうしゃ)を認識して、小夜は息を呑んだ。 (芦屋茂彬(しげあき)……! 暗殺に失敗したどころか、標的に助けられてしまった……!)
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