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第三章 開花
◆ ◆ ◆
小夜にとって、生家は檻のような場所だった。
綾子が生まれてからは特に、部屋は地下の一室へと移され、出来損ないと罵られる日々を送っていた。
綾子が生まれる前。
乳母に手を引かれて出かけた先は、麗らかな陽ざしの降り注ぐ神社の境内だった。
「小夜さん? どうかされましたか?」
乳母の手をほどいて小夜は地面にしゃがみ込む。
慣れない土のにおいに惹かれたからではない。
野良猫が戯れているのが、普段見慣れているものだったからだ。
式神符だ。猫の足元で、じたばたともがいている。
「めっ」
小夜が野良猫を追い払おうとすると、野良猫は小夜を引っ搔いてきた。
とすっ。
しりもちをついた小夜を威嚇して、そのまま野良猫は立ち去った。
地面に落ちたそれを見て、小夜は首を傾げる。
縦四本と横五本からなる格子が描かれていたからだ。
「……五芒星じゃ、ない……?」
「芦屋家の式神符ですね。どうしてこんなところに」
起き上がった人型の式札は、浮き上がると小夜の頬に触れた。
ぺたりと。引っ掻かれた傷痕を、労わるように。
そして、そのまま風に吹かれるようにして、どこかへ消えていった。
小夜がこのとき幸運だったのは、この出来事を、乳母が小夜の両親へ報告しなかったことだ。
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