第三章 開花

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 あらあらまぁまぁ、とみつの声は弾んでいる。  小夜は口をぽかんと開けた。 「何をそんなに驚いている」 「問題、ないのですか?」 「ないから休むと言っている」  煮え切らない小夜に変わって、みつが尋ねた。 「ちなみに、どちらへ行かれるおつもりですか?」    ◆ ◆ ◆ 「い、いけません。そんな」  小夜はうろたえ、瞳を潤ませた。 「これくらいいいだろう」 「……わたしには分不相応です」  ふたりの視線の先にあるのは、立派なべっこうの簪だ。  馬車の中で茂彬は、小夜が使える髪飾りを買いに行く、と告げた。  珊瑚の簪は綾子の呪具。  茂彬が処分してしまった。  その代わりとなる物を贈りたい、と茂彬は言った。  しかし、小夜としては受け取る訳にはいかない。 「わたしは芦屋家に預かりの身です。こんな高価なものを受け取る理由はありません」 「では理由を変えよう。みつが怪我をしてから家のことを進んでやってくれているが、給金を出す訳にはいかない。もし今後生活に困ることがあれば、質にでも入れるといい」 (どうしよう。旦那様の言っていることが、さっぱり分からない)  なお、べっこう店の主は笑みを浮かべ、ふたりの押し問答を眺めている。
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