47人が本棚に入れています
本棚に追加
あらあらまぁまぁ、とみつの声は弾んでいる。
小夜は口をぽかんと開けた。
「何をそんなに驚いている」
「問題、ないのですか?」
「ないから休むと言っている」
煮え切らない小夜に変わって、みつが尋ねた。
「ちなみに、どちらへ行かれるおつもりですか?」
◆ ◆ ◆
「い、いけません。そんな」
小夜はうろたえ、瞳を潤ませた。
「これくらいいいだろう」
「……わたしには分不相応です」
ふたりの視線の先にあるのは、立派なべっこうの簪だ。
馬車の中で茂彬は、小夜が使える髪飾りを買いに行く、と告げた。
珊瑚の簪は綾子の呪具。
茂彬が処分してしまった。
その代わりとなる物を贈りたい、と茂彬は言った。
しかし、小夜としては受け取る訳にはいかない。
「わたしは芦屋家に預かりの身です。こんな高価なものを受け取る理由はありません」
「では理由を変えよう。みつが怪我をしてから家のことを進んでやってくれているが、給金を出す訳にはいかない。もし今後生活に困ることがあれば、質にでも入れるといい」
(どうしよう。旦那様の言っていることが、さっぱり分からない)
なお、べっこう店の主は笑みを浮かべ、ふたりの押し問答を眺めている。
最初のコメントを投稿しよう!