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「淑子」
茂彬が口にしたのは彼女の名前なのだろう。
ふわりと、明るい少女の表情が、更に明るくなる。
「学校はどうした」
「夢で茂彬さまにお会いしたら、いてもたってもいられなくなりました」
「つまり、脱走してきたということか」
「課題はきちんと提出してまいりました」
茂彬がこめかみを押さえてわざとらしく溜め息を吐き出した。
傍らで見ているだけの小夜だったが、その珍しさに目を丸くする。
(旦那さまが呆れている……?)
確かに、突然現れた少女と茂彬の会話は、絶妙に成立していない。
そして少女は小夜を認識していなかった。
小夜が困惑していると、ちょうどみつが現れた。
「お帰りなさいませ、旦那様。あら?」
「みつさん、お久しぶりです」
少女は、茂彬との距離を変えないまま、顔だけみつへと向ける。
「あらあらまぁまぁ」
みつが口癖と共に小夜と少女を見比べた。
「旦那様、中へお入りになられてはどうですか? 小夜さんも、淑子さんも、おやつを出しますね」
「『小夜』?」
ようやく、淑子は小夜に気づいた。
きょとんと首を傾げながら、口をすぼめる。
「あなた、だぁれ?」
悪意もなければ興味もほとんどない、問いかけだった。
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