第三章 開花

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淑子(よしこ)」  茂彬が口にしたのは彼女の名前なのだろう。  ふわりと、明るい少女の表情が、更に明るくなる。 「学校はどうした」 「夢で茂彬さまにお会いしたら、いてもたってもいられなくなりました」 「つまり、脱走してきたということか」 「課題はきちんと提出してまいりました」  茂彬がこめかみを押さえてわざとらしく溜め息を吐き出した。  傍らで見ているだけの小夜だったが、その珍しさに目を丸くする。 (旦那さまが呆れている……?)  確かに、突然現れた少女と茂彬の会話は、絶妙に成立していない。  そして少女は小夜を認識していなかった。  小夜が困惑していると、ちょうどみつが現れた。 「お帰りなさいませ、旦那様。あら?」 「みつさん、お久しぶりです」  少女は、茂彬との距離を変えないまま、顔だけみつへと向ける。 「あらあらまぁまぁ」  みつが口癖と共に小夜と少女を見比べた。 「旦那様、中へお入りになられてはどうですか? 小夜さんも、淑子さんも、おやつを出しますね」 「『小夜』?」  ようやく、淑子は小夜に気づいた。  きょとんと首を傾げながら、口をすぼめる。 「あなた、だぁれ?」  悪意もなければ興味もほとんどない、問いかけだった。
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