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みつの説明によると、少女の名は芦屋淑子。
分家筆頭の長子。すなわち、一族によって決められた茂彬の婚約者。
両親は薬草畑の管理を任されている。
淑子は淑子で、小夜が芦屋家にいる経緯は知らなかったらしい。
「淑子と同い年ね」
淑子は、小夜にではなく、茂彬へ向けて感想を述べた。
そんな彼女は茂彬の隣から離れようとしない。
向かい合って座る小夜は愛想笑いを顔に貼りつけたまま、ふたりのやり取りを眺めていた。
煎茶と共に出されたのは南蛮菓子ことカステラ。
濃い黄色の断面へデザートフォークを入れると、しっとりしながらも弾力が伝わってくる。
芦屋家で初めて食べたもののひとつであるが、小夜は密かに気に入っていた。
ところが、今はその甘さが舌に伝わってこない。
(婚約者……)
耳にした単語がどうにも引っかかっているのだ。
(婚約者っていうことは、旦那様の、お嫁さんになる人……)
小夜はこれまで同世代の女性に会ったことがなかった。
目の前の淑子ははつらつとしていて、肌も髪も艶がある。
(女学校に通っているんだ……)
学校というものが教養を学ぶ場所であることくらい、小夜にも分かる。
陰陽道の系譜に連なっているというのに、この差は何なのか。
小夜は自らの手に視線を落とした。
芦屋家での生活によりだいぶ良くなったとはいえ、傷の絶えなかった手……。
「小夜さん?」
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