第三章 開花

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 みつの声で、小夜ははっと我に返る。  茂彬がまっすぐに小夜を見ていた。 「気分がすぐれないのか?」 「そうかも、しれません。少し休んで、きま、す」  小夜はよろよろと立ち上がった。  頭を下げてその場から出る。  どこまでも明るい淑子の笑い声が聞こえてきて、足早に当てがわれた部屋へと急いだ。  そして、へなへなと畳の上に座り込む。 (わたしったら、何を)  耳の奥、心臓の鼓動がうるさい。  これは絶望を告げる律動だ。 「どうしよう……わたし……旦那様のことを……」  ――好きになっていた。  絶対に、思い慕ってはならない相手。厳しさと優しさを併せ持つ芦屋家の当主。  自覚した瞬間に手折るべき、恋心だった。    ◆ ◆ ◆ 『ねぇねぇ、ねぇねぇ』  小夜が目を覚ますと、枕元に小さな式神符が立っていた。  声には聞き覚えがある。しかも、今日の昼間。 「……淑子、様?」 『よかった。やっと起きてくれた』  小夜は起き上がり、式神の前に正座する。 『あなたに頼みがあるの。いいかしら?』 「頼み……?」  おうむ返しに尋ねる小夜に、式神はひらひらと楽しそうな反応を見せる。 『女学校に入学してから、なかなか茂彬さまに会えなくて寂しかったの』
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