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みつの声で、小夜ははっと我に返る。
茂彬がまっすぐに小夜を見ていた。
「気分がすぐれないのか?」
「そうかも、しれません。少し休んで、きま、す」
小夜はよろよろと立ち上がった。
頭を下げてその場から出る。
どこまでも明るい淑子の笑い声が聞こえてきて、足早に当てがわれた部屋へと急いだ。
そして、へなへなと畳の上に座り込む。
(わたしったら、何を)
耳の奥、心臓の鼓動がうるさい。
これは絶望を告げる律動だ。
「どうしよう……わたし……旦那様のことを……」
――好きになっていた。
絶対に、思い慕ってはならない相手。厳しさと優しさを併せ持つ芦屋家の当主。
自覚した瞬間に手折るべき、恋心だった。
◆ ◆ ◆
『ねぇねぇ、ねぇねぇ』
小夜が目を覚ますと、枕元に小さな式神符が立っていた。
声には聞き覚えがある。しかも、今日の昼間。
「……淑子、様?」
『よかった。やっと起きてくれた』
小夜は起き上がり、式神の前に正座する。
『あなたに頼みがあるの。いいかしら?』
「頼み……?」
おうむ返しに尋ねる小夜に、式神はひらひらと楽しそうな反応を見せる。
『女学校に入学してから、なかなか茂彬さまに会えなくて寂しかったの』
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