第三章 開花

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「はぁ」  ちくり、と小夜は胸が痛むのを感じたが、曖昧にごまかす。  続く提案は、小夜にとって青天の霹靂だった。 『やっぱり、大好きな人とはもっと一緒にいたいじゃない?』    ◆ ◆ ◆ (無理、無理すぎる。隠し通せる気がしない)  緊張で、冷や汗が噴き出す。  袖を通した矢絣の小袖と海老茶色の袴の大きさはぴったりだった。  髪は後ろで一本の三つ編みに。英吉利(イギリス)結びと呼ぶのだと淑子に教えてもらった。  しかし、一番の問題点は何かというと。  淑子によって、今、小夜の顔は淑子に見える術をかけられているということだ。  実際に顔を変えられているのではない。  あくまでも、幻覚。  そして、小夜は人慣れしていない。 「淑子さん、ごきげんよう」  話しかけられて、びくりと肩を震わせた。  今、小夜がいるのは、女学校内の廊下なのだ。 「あっ、は、はい……。ごきげん、よう?」  同級生は不審がることなく小夜を追い越していった。  教科書を抱える腕に力を込め、小夜は、大きく溜め息を吐き出す。    昼食の時間に呼び出された小夜。  淑子と入れ替わり、女学生を装っている。その期限は、明日の昼まで。  なんとか午後の授業を終える頃にはふらふらになっていた。
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