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「はぁ」
ちくり、と小夜は胸が痛むのを感じたが、曖昧にごまかす。
続く提案は、小夜にとって青天の霹靂だった。
『やっぱり、大好きな人とはもっと一緒にいたいじゃない?』
◆ ◆ ◆
(無理、無理すぎる。隠し通せる気がしない)
緊張で、冷や汗が噴き出す。
袖を通した矢絣の小袖と海老茶色の袴の大きさはぴったりだった。
髪は後ろで一本の三つ編みに。英吉利結びと呼ぶのだと淑子に教えてもらった。
しかし、一番の問題点は何かというと。
淑子によって、今、小夜の顔は淑子に見える術をかけられているということだ。
実際に顔を変えられているのではない。
あくまでも、幻覚。
そして、小夜は人慣れしていない。
「淑子さん、ごきげんよう」
話しかけられて、びくりと肩を震わせた。
今、小夜がいるのは、女学校内の廊下なのだ。
「あっ、は、はい……。ごきげん、よう?」
同級生は不審がることなく小夜を追い越していった。
教科書を抱える腕に力を込め、小夜は、大きく溜め息を吐き出す。
昼食の時間に呼び出された小夜。
淑子と入れ替わり、女学生を装っている。その期限は、明日の昼まで。
なんとか午後の授業を終える頃にはふらふらになっていた。
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