47人が本棚に入れています
本棚に追加
ある意味、小夜にとっても好都合だった。
茂彬への恋心を自覚してしまったばかりに、顔を合わせるのが気まずかった。
そして、だからこそ、淑子のことを応援すべきだとも考えた。
(……旦那様は呆れながらも無碍にはできないだろうから)
顔を合わせていなくても、胸は軋む。
(寄宿舎は個室だと聞いているから、あとは、体調がすぐれないと言って引きこもろう)
こんな形でなければ、女学生体験も楽しめたかもしれない。
いつ露見するか緊張で張りつめていると何が何だか分からず、残念でもあった。
「あれ? お嬢さん? えっ?」
突然、知った声が響いた。
小夜が振り返ると立っていたのは白衣に片眼鏡の、春敬だった。
「どうしてこんなところに?」
「は、春敬さんこそ……どうしてわたしだと分かるんですか」
その言葉で、春敬はある程度の事情を察したらしい。
彼にしては珍しく顔をしかめ、髪の毛をかきむしった。
「なるほど。淑子さんの仕業だね」
小夜は肯定する代わりに俯いた。
つまり、淑子の幻術は、一般人にしか効果がないということだ。
「おいらはここの非常勤講師なんでさぁ」
「……そうでしたか」
最初のコメントを投稿しよう!