第三章 開花

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 ある意味、小夜にとっても好都合だった。  茂彬への恋心を自覚してしまったばかりに、顔を合わせるのが気まずかった。  そして、だからこそ、淑子のことを応援すべきだとも考えた。 (……旦那様は呆れながらも無碍(むげ)にはできないだろうから)   顔を合わせていなくても、胸は軋む。 (寄宿舎は個室だと聞いているから、あとは、体調がすぐれないと言って引きこもろう)  こんな形でなければ、女学生体験も楽しめたかもしれない。  いつ露見するか緊張で張りつめていると何が何だか分からず、残念でもあった。 「あれ? お嬢さん? えっ?」  突然、知った声が響いた。  小夜が振り返ると立っていたのは白衣に片眼鏡(モノクル)の、春敬だった。 「どうしてこんなところに?」 「は、春敬さんこそ……どうしてわたしだとんですか」  その言葉で、春敬はある程度の事情を察したらしい。  彼にしては珍しく顔をしかめ、髪の毛をかきむしった。 「なるほど。淑子さんの仕業だね」  小夜は肯定する代わりに俯いた。  つまり、淑子の幻術は、一般人にしか効果がないということだ。 「おいらはここの非常勤講師なんでさぁ」 「……そうでしたか」
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