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「いやぁ、それにしても、お嬢さんがいると思って帰ってきたら淑子さんがいたときの旦那の表情が怖くて想像できない。くわばらくわばら」
「え?」
「とりあえず、おいらが何とかするから芦屋家へ帰りましょう。お嬢さんがここにいる方が危ない」
小夜はその視点が抜け落ちていたことに気づいて愕然とした。
芦屋家の外に出れば小夜は綾子から狙われる。
(わたしったら、なんて過ちを……!)
青ざめる小夜。
そもそも通常であればこんなこと、引き受けたりしないはずなのだ。絶対に。
「も、申し訳ありません」
「まぁまぁ。過ぎたことはしょうがないし、淑子さんの押しの強さはおいらもよーく知ってるから」
飄々としている春敬が苦笑いするというのは余程のことだろう。
「玄関で待ってておくれ。ちょっと手続きしてくるから」
「は、はい……」
いたたまれなさで、小夜の頭はいっぱいになっていた。
小走りで去っていく春敬の背中を見送り、何度目かの溜め息を吐き出す。
ぞわ……。
「!?」
不意に違和感を覚えて、小夜は辺りを見渡す。
何者かが小夜を見ている。それも、人ならざる者の視線だ。
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