第一章 選択

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 春敬と呼ばれた青年が見上げた長身の青年こそ、芦屋茂彬その人だった。  白皙(はくせき)の美貌と名高い彼は、薄茶色の髪で、はしばみ(ヘーゼル)色の瞳の持ち主。異国の血が混ざっていると噂されている。  すっと茂彬は小夜に近づくと、感情の読めない瞳で見下ろした。 「しばらくは寝ているといい。呪いに利用されていたのだ。体調が万全に戻るまではしばらくかかるだろう」 「旦那、旦那。いきなり呪いだなんて言ったら、びっくりしちゃいますぜ。物事には順序ってやつがあるんですから」  春敬は、小夜が挿していたはずの珊瑚の髪飾りをひらひらとかざした。 「流行りの髪飾り。これに、持ち主を巻き込んで呪い殺す術がかけられていたんでっさ。いやー、旦那がたまたま遭遇しなければ、お嬢さんを巻き込んで甚大な被害が出てたでしょうね!」 「数年前に新政府より禁じられた秘術だ。恐らく、これを身に着けてからの意識はないのでは? 私を殺す、と言って目の前に飛び出してきたのだから」  春敬とは真逆の淡々とした口調。  小夜は、自らの血の気が引いていくのを感じていた。 (確かに言いました。お命頂戴、と。ですが、それは自分の意志で、です)  しかし真実を告げることはできない。  小夜は、茂彬の推論に乗ることにした。布団の中で何度も頷いてみせる。 「秘術は禁止されたといえ、密かに横行しているのも事実だ。春敬は怪異専門の医者だ。困ったことがあれば頼るといい」 「おや? 旦那、もうお出かけで?」  茂彬はインバネスコートを着ていた。山高帽を被ると、無表情はさらに見えなくなる。 「簪の出処はまだ分かっていない。今日は満月だ。術者を突き止めるには、絶好の日だろう」 「ご武運を」  茂彬を見送り、春敬は首を傾げた。 「しかし、口がきけないってのは呪いの余波かねぇ」
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