第三章 開花

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 ごぽごぽ、と足元が泡立った。  廊下は水面のように波打ち、ゆっくりと、異形の頭が現れる。  小夜は反射的に懐から式神を取り出す。 「〈呪符退魔、急急如律令〉!」  ところが遅かった。  それの腕が伸びてきて小夜の両足を掴む。 「い、いや……っ!」  強い力で下へと引っ張られ、小夜は引きずられていく。  残されたのは、制服と、教科書の束。    ◆ ◆ ◆ 「つまり、初心に返ることにしたのですわ」  綾子は小夜の頬を踏みつけながら告げた。  小夜が連れ去られた先は馴染みのある、できれば二度と戻りたくない場所だった。  蝋燭の灯りのみの空間は、仕置き部屋と呼ばれている。  任務を失敗した者が罰を受けるための部屋。  壁際には誰のものとも判らないしゃれこうべが転がっている。  裸にされた上に両手足を縛られ、床に寝転がされた小夜は、そのなかのひとつと目が合う。  実際に目玉はないものの、小夜は息を呑んだ。 (ほんとうに……わたしは迂闊すぎた……)  後悔しても、もう遅い。  綾子の術中から逃れられるとは到底思えなかった。  絶望で吐きそうになるのを、なんとか堪える。  その様子をうれしそうに綾子は眺めていた。 「十二神将を出そうかとも思ったけれど、それじゃあ、わたくしが芦屋茂彬に屈したみたいでいやじゃない? それなら、やっぱりお姉様を使うのが最適と判断しましたの」
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