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ごぽごぽ、と足元が泡立った。
廊下は水面のように波打ち、ゆっくりと、異形の頭が現れる。
小夜は反射的に懐から式神を取り出す。
「〈呪符退魔、急急如律令〉!」
ところが遅かった。
それの腕が伸びてきて小夜の両足を掴む。
「い、いや……っ!」
強い力で下へと引っ張られ、小夜は引きずられていく。
残されたのは、制服と、教科書の束。
◆ ◆ ◆
「つまり、初心に返ることにしたのですわ」
綾子は小夜の頬を踏みつけながら告げた。
小夜が連れ去られた先は馴染みのある、できれば二度と戻りたくない場所だった。
蝋燭の灯りのみの空間は、仕置き部屋と呼ばれている。
任務を失敗した者が罰を受けるための部屋。
壁際には誰のものとも判らないしゃれこうべが転がっている。
裸にされた上に両手足を縛られ、床に寝転がされた小夜は、そのなかのひとつと目が合う。
実際に目玉はないものの、小夜は息を呑んだ。
(ほんとうに……わたしは迂闊すぎた……)
後悔しても、もう遅い。
綾子の術中から逃れられるとは到底思えなかった。
絶望で吐きそうになるのを、なんとか堪える。
その様子をうれしそうに綾子は眺めていた。
「十二神将を出そうかとも思ったけれど、それじゃあ、わたくしが芦屋茂彬に屈したみたいでいやじゃない? それなら、やっぱりお姉様を使うのが最適と判断しましたの」
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