第三章 開花

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 くすくす、と綾子が笑みを零す。  しゃがみこむと、小夜の前髪を持ち上げて、顔を上へと向けさせる。 「お姉様、立派なになってくださいませ」    ◆ ◆ ◆    気づくと小夜は街中に放り出されていた。 (頭が痛い……割れそう……痛い……)  視界に、黒い線のようなものが混じっている。  よろめきながら歩く。たまにぶつかり、睨まれたり心配されたりしながら、小夜はふらふらと歩いている。  しかし途中から、人々の声に恐怖や悲鳴が混じり出した。  小夜を避け、逃げるようにして離れていく。 (なに……?)  ようやく小夜は立ち止まり、足元へ視線を落とした。  足が、ない。  正確には、小夜の足ではなくなっていた。泥と煙を混ぜ合わせたような物質。足も、腕も、胴体も。  ぼとり、と腕から肉片が落ちる。  じゅうと異臭を放ち地面を焼く。 (いや……止まって、お願い、止まって……)  この道を小夜は知っている。  芦屋家へと向かう一本道だ。 (だめ……旦那様を殺すなんて、絶対に……)  しかし、足は止まらない。  綾子が小夜に打ち込んだ、一本の太い釘という呪い。それが腐食したように全身に広がっているのだ。  流れる涙もまた、呪い。  やがて。  周囲に誰もいなくなった頃、視界の向こうに、颯爽と人影が現れた。 「惨たらしいことを」
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