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くすくす、と綾子が笑みを零す。
しゃがみこむと、小夜の前髪を持ち上げて、顔を上へと向けさせる。
「お姉様、立派な呪いになってくださいませ」
◆ ◆ ◆
気づくと小夜は街中に放り出されていた。
(頭が痛い……割れそう……痛い……)
視界に、黒い線のようなものが混じっている。
よろめきながら歩く。たまにぶつかり、睨まれたり心配されたりしながら、小夜はふらふらと歩いている。
しかし途中から、人々の声に恐怖や悲鳴が混じり出した。
小夜を避け、逃げるようにして離れていく。
(なに……?)
ようやく小夜は立ち止まり、足元へ視線を落とした。
足が、ない。
正確には、小夜の足ではなくなっていた。泥と煙を混ぜ合わせたような物質。足も、腕も、胴体も。
ぼとり、と腕から肉片が落ちる。
じゅうと異臭を放ち地面を焼く。
(いや……止まって、お願い、止まって……)
この道を小夜は知っている。
芦屋家へと向かう一本道だ。
(だめ……旦那様を殺すなんて、絶対に……)
しかし、足は止まらない。
綾子が小夜に打ち込んだ、一本の太い釘という呪い。それが腐食したように全身に広がっているのだ。
流れる涙もまた、呪い。
やがて。
周囲に誰もいなくなった頃、視界の向こうに、颯爽と人影が現れた。
「惨たらしいことを」
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