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◆ ◆ ◆
小夜は、いつかの藍色の世界に立っていた。
紅い着物を着た女性が小夜の目の前にいる。
やはり、風もないのに銀色の髪がゆらゆらと揺れていた。
『ありがとうございます。ようやく封印が解けました』
ただ、前回と違うのは、女性には顔があるということ。
「釘が……」
小夜の胸元に釘は刺さっていなかった。
代わりに刺さっているのは、べっこうの簪。
自死に用いた筈だった。
しかし、驚くことに、呪いに対して中和の役割を果たしているようだった。
『貴女がここへ来るのをずっと待っていました。そして、契りを交わす日を』
「契り……。ということは、やっぱり、あなたはわたしの」
女性は微笑み、小夜に近づいた。
軽く触れ合うのはお互いの唇。
「えっ」
驚きの声を上げる小夜。
同時に流れ込んできたのは、女性の真名だった。
『さぁ、我が主。どうぞ名前を呼んでください。私は貴女のものです』
◆ ◆ ◆
「小夜」
「旦那様……?」
小夜は慌てて身を起こす。
一糸まとわぬ姿で、茂彬の膝に寝かされていたのだ。
「だっ、だ、」
赤面した理由に思い至った茂彬は、眉一本動かさず、インバネスコートを小夜にかけた。
(……あ。旦那様の、においが、する……)
不意に、緊張がゆるむ。
しかし慌てて取り繕い、茂彬を見上げた。
「呪いは……」
「君がすべて浄化した。以降の情報操作については、芦屋家の仕事だ」
「申し訳ございません。その……」
「信じられませんわ!」
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