第三章 開花

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   ◆ ◆ ◆  小夜は、いつかの藍色の世界に立っていた。  紅い着物を着た女性が小夜の目の前にいる。  やはり、風もないのに銀色の髪がゆらゆらと揺れていた。 『ありがとうございます。ようやく封印が解けました』  ただ、前回と違うのは、女性には顔があるということ。 「釘が……」  小夜の胸元に釘は刺さっていなかった。  代わりに刺さっているのは、べっこうの簪。  自死に用いた筈だった。  しかし、驚くことに、呪いに対して中和の役割を果たしているようだった。 『貴女がここへ来るのをずっと待っていました。そして、契りを交わす日を』 「契り……。ということは、やっぱり、あなたはわたしの」  女性は微笑み、小夜に近づいた。  軽く触れ合うのはお互いの唇。 「えっ」  驚きの声を上げる小夜。  同時に流れ込んできたのは、女性のだった。 『さぁ、我が主。どうぞ名前を呼んでください。私は貴女のものです』    ◆ ◆ ◆ 「小夜」 「旦那様……?」  小夜は慌てて身を起こす。  一糸まとわぬ姿で、茂彬の膝に寝かされていたのだ。 「だっ、だ、」  赤面した理由に思い至った茂彬は、眉一本動かさず、インバネスコートを小夜にかけた。 (……あ。旦那様の、においが、する……)  不意に、緊張がゆるむ。  しかし慌てて取り繕い、茂彬を見上げた。 「呪いは……」 「君がすべて浄化した。以降の情報操作については、芦屋家の仕事だ」 「申し訳ございません。その……」 「信じられませんわ!」
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