第三章 開花

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 空から降ってくる声。  空中に浮かんでいるのは、綾子だった。 「どうやって呪いを解いたのかしら? それに、を手に入れたというの」  わずかに含まれる苛立ち。  小夜はコートをしっかりと羽織って立ち上がった。  怯むことなく、綾子を見上げる。 「紹介します、綾子さん。――『鈴鹿御前』」  小夜の背後に顕現するのは、彼女だけの思業式神だ。  輪郭に淡い光を帯びた鈴鹿御前は、口元を扇で隠している。  同時に浮かぶいくつもの五芒星。 「わたしはこれから、人を殺すのではなく、人を守る道を求めます」 「お姉様の分際で!」  綾子が式神を放つ。  しかし、鈴鹿御前はいとも簡単にそれらを扇で滅してしまう。 「くっ……!」 「そうか、呪いを解いたことで、思業式神を使役することができたか」  茂彬もまた、立ち上がる。  そして小夜を抱き寄せた。 「ますます、藤田家へ返す訳にはいかなくなったな」 「えっ?」  突然の茂彬の行動にうろたえる小夜だったが、綾子は怒り心頭で気にも留めない。 「二人とも、覚えておくがいいわ。この藤田綾子の名にかけて、必ずや滅ぼしてさしあげましょう……!」  身を翻したときには、その姿は消え失せていた。 (十二神将を……出さなかった……? それでも、ここで決着をつけてこようとしなくてよかった)  小夜は何もない空を見上げた。  綾子が簡単に引き下がったのは不幸中の幸いとしか言いようがない。  そして、またいつ襲ってくるかは分からない。 「屋敷へ帰るぞ」 「あっ、あの、旦那様?」
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