第三章 開花

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「いつまでもそんな姿でいてどうする」 「……」  平時に戻り、己の一糸まとわぬ姿に、小夜は改めて赤面した。どこか隠れられそうな場所もなく、俯いたままコートをきつく羽織りなおす。 「それに、これからの対策も練らねばなるまい」  性急な茂彬の様子に、小夜は戸惑う。 「あの、わたしは芦屋家へ戻ってよいのでしょうか。その、淑子さん、は……?」 「帰らせたに決まっている」  茂彬の声には呆れと怒りが含まれていた。  恐らく、淑子はひどく怒られたに違いない。そもそも計画自体穴だらけだったのだ。  茂彬は大きく溜め息を吐き出した。 「あれはまだ幼い。恋と憧れを混同しているだけだ。それと、一族の意志に飲まれすぎだ」 (恋と、憧れ……)  小夜にも身に覚えのある言葉だった。  茂彬へ対する感情は憧れなのか、恋なのか。  前者ならばいい。小夜は藤田家へ反旗を翻した。これからやらぬべきこもは決まっている。  しかし。 (封をしなきゃ。わたしが今できることは、旦那様や、……この街を守ることなんだから)  その蕾に、水や肥料をやらないように。  咲かないように努めようと、小夜は誓うのだった。  たとえ、もう咲いているのに、気づかないのだとしても……。
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