49人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
「いつまでもそんな姿でいてどうする」
「……」
平時に戻り、己の一糸まとわぬ姿に、小夜は改めて赤面した。どこか隠れられそうな場所もなく、俯いたままコートをきつく羽織りなおす。
「それに、これからの対策も練らねばなるまい」
性急な茂彬の様子に、小夜は戸惑う。
「あの、わたしは芦屋家へ戻ってよいのでしょうか。その、淑子さん、は……?」
「帰らせたに決まっている」
茂彬の声には呆れと怒りが含まれていた。
恐らく、淑子はひどく怒られたに違いない。そもそも計画自体穴だらけだったのだ。
茂彬は大きく溜め息を吐き出した。
「あれはまだ幼い。恋と憧れを混同しているだけだ。それと、一族の意志に飲まれすぎだ」
(恋と、憧れ……)
小夜にも身に覚えのある言葉だった。
茂彬へ対する感情は憧れなのか、恋なのか。
前者ならばいい。小夜は藤田家へ反旗を翻した。これからやらぬべきこもは決まっている。
しかし。
(封をしなきゃ。わたしが今できることは、旦那様や、……この街を守ることなんだから)
その蕾に、水や肥料をやらないように。
咲かないように努めようと、小夜は誓うのだった。
たとえ、もう咲いているのに、気づかないのだとしても……。
最初のコメントを投稿しよう!