49人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
終章 その先へ
◆ ◆ ◆
「どうしてお前たちまでここにいるんだ」
約束していた、茂彬の休日。
小夜が列車に驚いていると、淑子と春敬が現れた。
「創立記念日でお休みだからです!」
「ははは。淑子さんだけを行かせる訳にはいきませんからねぇ」
「あ、あの、旦那様」
小夜が茂彬と春敬の間に割って入る。
「大勢の方が楽しいですよ、きっと」
「くっ……」
「横浜ってのは文明開化の最先端だって噂でしょう。おいらもどんなところか一度見てみたかったんでさぁ」
「ふん」
茂彬は何かを言いたげだったが、耐えるように口を噤んだ。
「小夜さん」
「は、はい!」
あのとき以来の再会に、小夜は肩をこわばらせる。
しかし淑子は勢いよく小夜の手を取った。
「私たち、きっといい友人になれる気がするの。よろしくね」
「こ、こちらこそ」
「それに、負けませんからね」
「いえ、そんな……?」
勝負の意味が分からず首を傾げる小夜。
その髪の毛には、べっこうの簪が戻っている。
「さぁさぁ、行きますよ! とっとと行っちゃいましょう!」
何故だか春敬が先導する。
淑子も淑子で、茂彬ではなく小夜の手を引っ張って歩き出した。
慌てて小夜は振り返る。
茂彬は眉間に皺を寄せていた。
しかし小夜と視線が合うと、柔らかく微笑むのだった。
了
最初のコメントを投稿しよう!