第一章 選択

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 小夜は息を呑んだ。  綾子の式神を燃やしたのは茂彬だ。そして、それは恐らく綾子にも伝わっただろう。  小夜は心臓に手を当てた。  まるで皮膚の上から引き抜くようにして現れたのは自刃用の短刀――同時に布団を蹴り上げて飛び上がる。 「覚悟ッ!」  布団を目眩しとして、小夜は茂彬へ間合いを詰める。 「ぬるい」  自らの魂で練り上げた武器だったが、あっさりと茂彬に躱されてしまう。  短刀は畳の上に落ち、細腕はしっかりと掴まれる。軽く捻り上げられ、小夜は顔をしかめた。 「すまないが、外出する(てい)を装い、見張らせてもらっていた。君が藤田家の人間と判ったからには容赦しない」 「あああああっ!」  全身が引き裂かれそうな痛みに襲われ小夜は絶叫した。茂彬から腕を離されると、どさり、と布団の上に落ちる。 「髪飾りが呪具だった時点で、藤田綾子に何らかの関わりがあるとは思っていたが」 「……殺してください」  綾子は裏稼業ではあまりにも有名すぎるのだった。  言い逃れはできない。息も絶え絶えに、小夜は訴えた。  瞳から溢れた涙が布団を濡らす。 「おっしゃる通り、わたしは藤田家の者です。そして貴方様の暗殺が課された役目でした。それが失敗した今、おめおめと実家へ戻ることはできません。ならばいっそのこと、ここで命を」 「申し訳ないが、それはできない」  小夜の願いを、茂彬は一蹴した。 「恐らく君の命そのものに呪いが仕込まれているのだろう? 私が君を殺せば、呪いが私に降りかかるようにできている」 「……」 「図星か」
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