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小夜は息を呑んだ。
綾子の式神を燃やしたのは茂彬だ。そして、それは恐らく綾子にも伝わっただろう。
小夜は心臓に手を当てた。
まるで皮膚の上から引き抜くようにして現れたのは自刃用の短刀――同時に布団を蹴り上げて飛び上がる。
「覚悟ッ!」
布団を目眩しとして、小夜は茂彬へ間合いを詰める。
「ぬるい」
自らの魂で練り上げた武器だったが、あっさりと茂彬に躱されてしまう。
短刀は畳の上に落ち、細腕はしっかりと掴まれる。軽く捻り上げられ、小夜は顔をしかめた。
「すまないが、外出する体を装い、見張らせてもらっていた。君が藤田家の人間と判ったからには容赦しない」
「あああああっ!」
全身が引き裂かれそうな痛みに襲われ小夜は絶叫した。茂彬から腕を離されると、どさり、と布団の上に落ちる。
「髪飾りが呪具だった時点で、藤田綾子に何らかの関わりがあるとは思っていたが」
「……殺してください」
綾子は裏稼業ではあまりにも有名すぎるのだった。
言い逃れはできない。息も絶え絶えに、小夜は訴えた。
瞳から溢れた涙が布団を濡らす。
「おっしゃる通り、わたしは藤田家の者です。そして貴方様の暗殺が課された役目でした。それが失敗した今、おめおめと実家へ戻ることはできません。ならばいっそのこと、ここで命を」
「申し訳ないが、それはできない」
小夜の願いを、茂彬は一蹴した。
「恐らく君の命そのものに呪いが仕込まれているのだろう? 私が君を殺せば、呪いが私に降りかかるようにできている」
「……」
「図星か」
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