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その通りだった。
あくまでも珊瑚の髪飾りは第一段階。さらなる仕掛けとして、小夜の命そのものに呪いがかけられている。
恍惚とした綾子に刻み込まれた、一生解けない呪い……。
「安心するといい。君を藤田家へ送り返すような無粋なことはしない」
「……え?」
「一旦、その身は芦屋家で預からせてもらおう。いいな?」
それは小夜にとって、青天の霹靂ともいえる提案だった。
◆ ◆ ◆
「はっはっは! まさか、お嬢さんが藤田一族だったとはねぇ!」
翌日、小夜の元を訪れた春敬は笑いながら言った。
小夜は小夜で、びくびくしながら春敬へ顔を向ける。
「あの……」
「ん? 何だい?」
「わたしを咎めたりしないのですか? 騙していたことに対して」
「旦那が咎めないことを、どうしておいらが? 第一、その新品の小袖は何だい」
春敬の指摘とは、小夜の着ている小袖にあった。
納戸色に矢絣。どこからどう見ても、新しくあつらえたものだった。
「それは……その、旦那様、が」
呼び名は散々迷ったので、ぎこちない。
刃を向けたのは小夜とはいえ、攻撃を直に喰らわせたことの詫びとして、茂彬がみつを通じて用意させたのだ。
「似合う似合う。正直なところ、ぼろぼろで気になっていたんだ」
「そうでしたか……」
「で、今日はこれから旦那とお出かけだって?」
はい、と小夜は頷いた。
藤田家が茂彬を狙う理由、つまりは茂彬の仕事について説明すると言われていた。
小夜と春敬が話していると、そこへちょうど、茂彬が現れた。
「支度はできたか?」
「は、はい」
「では行こう。外に馬車を待たせてある」
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