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中学の頃まで進学塾に通い、学年でも上位三本に入る成績だった。だが、その事を知る人間はもういない。
高校二年の春に担任を殴って退学になった。クラスメイトが怪物を見るような目をしていた事を今でも思い出す。原因が全て担任だと言い訳をした所で、先に暴力を振るった俺は一番の悪者であり、非難されるべき対象なのだ。
優等生の幼き自分は、その事件をきっかけに消え去った。
両親は俺に失望し、親子の縁を切ると言ってきた。小学生から仲の良かった友人も話しかけてくることは勿論、視線を合わせてくる事も無くなった。
それならそれで構わない。いっそのこと底まで落ちてみよう。今の自分を慕ってくれる新しい悪友を作ればいい。
十七歳の夏、真面目に生きていくよりも、腐った生き方をする方が楽だということを知った。
同級生が赤本を開いて勉強している中、俺はタトゥーショップで全身に墨を入れていた。警察の世話になった回数も一度や二度ではない。暴力に暴力で返す日々を送っているうちに、悪友は増えた。中には少年院に二年以上入っていた男もいた。
『殺したい』『いつか殺したる』
そんな台詞は毎日のように耳に入るが、俺は未だかつて人を殺したいと思った事は無い。担任を殴り続けた時も、殺意は無かった。ただ、虐めに加担する格好の悪い大人が赦せなかっただけだ。
「いつでもいけるぞ。おいっ、聞いてんのか?」
悪友からの電話により、五年前の記憶を巡っていた俺は現実に戻ってくる。
俺はこの男と二人で旅行会社のデータベースに侵入して旅行者情報を抜き取り、なるべく金目のモノがありそうな家をピックアップして空き巣に入る準備を始めた。一ヵ月前は窓を割る寸前に歩行者が多くなり断念したが、今回はそのリベンジを兼ねて慎重に進めてきたのだ。
「ご苦労さん。で、カメラの位置はちゃんと確認したんやろうな?」
ピザショップ店員の制服を着ながら言葉を返す。この服なら歩行者がいても、家を探している配達員の振りが出来る。
「あぁ、ホームセキュリティもないし、今回は確実に侵入出来る。北側の塀を超えたら歩行者に見つかる事もない。リベンジ成功したら焼肉行こうや」
「わかった。一時間後に迎えに行く」
電話を切ってスマートフォンに視線を落とした時、今日が叔父の命日であることに気づく。
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