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「痛っ!!」
学校まで続く、桜並木の中心で、私は叫んだ。
この春から、登校班の班長になった私は、下級生達がちゃんとついて来ているか、時々後ろを振り返りながら歩いていた。前を向こうとした時、折れかけの桜の枝が、校帽と頭の間に刺さってきた!
何で桜の枝が、頭なんかに刺さるかって?
小学6年生にして、私の身長は170cmもあるからだ!
一番後ろを歩く、副班長の橘優太が、痛がる私を見て爆笑している。
「もう!笑わないでよ!本当に痛かったんだから!」
すごく恥ずかしかったけど、普段クールな橘の笑顔に、一瞬ドキッとした。
とっくにお母さんの背を抜いた私は、買い物について行くと、
「どっちがお母さん?」
なんて、顔馴染みのスーパーの店員さんに、声を掛けられてしまう。
ランドセルが似合わなくなったのは、いつからだっけ?
晴れて中学生になった私は、背を屈めながら、入学式に向かっている。
中学校まで続く道にも、ご丁寧に何本もの桜の木が植えられている。
真新しい制服は、一番大きいサイズ。スカートの丈は、今の時点で校則ギリギリだ。
隣を歩くお母さんが、
「お願いだから、それ以上大きくならないでよ!特注サイズに買い替え、なんてことになったら、高くついちゃう!」
なんて言ってきた。
これ以上背が伸びたら、お母さんにも、生活指導の先生にも怒られちゃう。伸びないように頑張らなくちゃ!(何を頑張ればいいのだ…。)
「1年2組の教室は…ここか!」
お母さんと一旦別れて、初めて入る教室に、少し緊張しながら、足を踏み入れると、
幼なじみの真依が、私に気付いて駆け寄ってきてくれた。
「里穂おはよう!同じクラスになれたね!」
「やったね!私たちやっぱり赤い糸で繋がってるのかな?」
「そうかもね!里穂の席、私の斜め後ろだよ!」
真依に手を引かれて、自分の席に座ると、廊下から、何やら男子の声が聞こえてきた。
「春小から来たっていう、デカイ女どこだろ?…あ、いた!あそこに座ってるヤツだ!」
「本当だ!すぐわかった!てか、あれで座ってるんだ!」
ニヤニヤしながら、知らない顔の男子2人組が、こっちを見ている。
「今に見てろよ!日本を代表するパリコレモデルになってやるんだから!」
入学式の翌日は、身体測定。私は朝からとっても憂鬱だった。
「吉田里穂さん。」
「はい。」
先生に呼ばれた私は、身長を計られている、八木友美ちゃんの前に立った。
とうとう私の番が来てしまった。名前順で(背の順でも)一番後ろの私は、背を計り終えて暇を持て余した、クラスのみんなの注目を集めながら、意を決して身長計に立った。
「171.3」
と先生が言った途端に、ざわざわし始める。
「うぇーい。」
と言いながら、拍手してくる男子や、
「去年の記録を1.2センチ更新!お気持ちは?」
とバカにしたような口調で、インタビュアーよろしく、拳を私の口元に持ってくる男子もいる。
その手を払いのけながら、ふと、保健室の後ろの方を見ると、つまんなそうに、片膝を立てて座っている、橘と目が合った。
先生に「力持ちそうだから」と、提出物を職員室へ運ぶのを手伝わされた私は(背が高いからって、女子に重い物持たせるな!)、帰り支度をしに、誰もいなくなった教室へ戻った。さっき配られた手紙などの掲示物が、いつの間にか、壁に貼られている。まだ見慣れない教室を、足早に後にした。
学校の前の桜並木を歩いていると、見覚えのある背中が。桜を見上げながら、ゆっくり歩いているその背中は、去年よりも大きくなった気がする。
「橘、まだいたんだ。」
「先生に頼まれて、壁に予定表とか、貼ってたから。」
「そうだったんだ。私も、先生にパシられちゃった。そういえば、今日の身体測定の時さ、みんな私が身長計る時、注目してきたのに、橘だけ興味なさそうだったね。」
「だって俺、吉田より背高くなったし。」
そういえば、いつも私を見上げてた橘の視線が、高くなってる!
「本当だ!身長何センチ?」
「え?秘密。…てか去年さ、登校班で歩いてる時、吉田の頭に桜の枝刺さったよね。あれマジウケた。今年は大丈夫?…って、俺も危ないか。お互い気をつけないとな。」
またドキッとさせる笑顔で、橘は私の方を見てきた。思わず目を逸らしながら、
「…そ、そんなこと覚えてなくていいし!てか、頭には刺さってないし!本当に刺さったら、笑い事じゃないし!」
と言いつつも、本当は覚えていてくれてたことが、すごく嬉しかった。
中学2年生になった私は、また背を屈めながら、桜並木を歩いている。
去年までは、桜が嫌いだったけど、今年は桜を見ると、ちょっと嬉しくなる。
今年も橘と、同じクラスになれるといいな…!
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