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注連縄の張られた石段の先は、竜神さまの土地でした。
春は桃、秋は梨の実がたわわに実るその場所は、人の踏み入れてはいけない特別な場所とされていました。
竜神の姫は生まれてからずっとそこで暮らしておりました。まだ角も伸び切らない小さな姫だったので、外に出ることを禁止されていたのです。
ある時、竜神の姫は梨の木の下で少年に出会いました。
姫と同じくらいの背丈の少年は、うっかり注連縄の先に来てしまったようでした。姫が梨の実をもいで少年に渡すと、少年は持っていた干柿を姫に渡しました。
「君の目とおんなじ色だね」
そう言って少年が笑うと、姫の頬が嬉しそうに染まりました。
やがて少年が家に帰りたいと言うと、姫は手をつないで少年を石段まで案内しました。
「また来てね、待ってるからね」
その頃にはもう、姫は彼のことが大好きになっておりました。
竜神の姫は再び少年が来る日を待ちましたが、それきり彼が訪れることはありませんでした。
やがて角が伸び外の世界に出ることを許された姫は、あの少年を探しにゆきました。
近くの村まで降りると少年はすぐに見つかりました。嬉しくなった姫は少年の手を取ると注連縄を越えて石段を登りました。
「もうどこにも行かないでね。ずっとここにいて、ずっと一緒に遊びましょう」
少年が帰りたいと言っても竜神の姫は首を振るばかり。石段まで案内することはありませんでした。
新月の夜、石段を登って一人の修験者が姫の前に現れました。村で神隠しにあった少年を探しにきたのです。
「その子どもは、貴女と約束した男の孫です。当の本人はもうとっくに亡くなっているのですよ」
彼の言葉を聞くと、姫は声を上げて泣きました。姫の声は嵐になりましたが、修験者が負けぬ声で叫びます。
「この子だって、貴女から見れば瞬く間に老いて死んでしまう。ならば村に帰し、その子々孫々を見守ってやってはくださらぬか」
竜神の姫は涙を収めて頷きました。泣きはらした自分の目玉をくり抜いて石にすると、それを少年に渡して言いました。
「あなたのこと、ずっと見てるから。困ったことがあったらこの石にお祈りして」
修験者は村に祠を立てると、その中に竜神の姫から渡された石を納めました。
今でも新月の夜に干柿を供えてお祈りすれば、柿色の石を通じて竜神の姫が願いを叶えてくれるそうです。ただ、縁結びを願うと、竜神の姫が泣くせいで辺りは大きな嵐に見舞われるのだと伝えられています。
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