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「じゃ、次回の予約とっておきますね。えっと、一番近いところだと…… 二週間後の午後十時になりますね」
「じゃあ、そこでお願いします」
「予定の変更等ございましたら、予約日より前に総合受付にていらして頂いて変更の旨を伝えるか、受付センターに電話の方をお願いします」
この患者さんは「今日のニュース」か「明日のニュース」を見れば少しは心も晴れるだろう。上手く行けば、これで会うのは最後かもしれない。洋瑛はそう考えていた。
「は、はい」
「では、お大事に」
カウンセリング終了後…… 洋瑛はカウンセリング室にて一人、佇んでいた。
次に予約している患者を待っていたのだが、来る気配がなくお茶を挽いていると、ノックの音がした。
「久市先生? お見えですか?」
「どうぞ」
入ってきたのは総合受付の事務員だった。小脇には菓子折りを抱えていた。
「今日の十一時から予約している『山川秋奈』さんがお見えにならないので、お電話の方をさせて頂いたのですが、ずっと留守番電話で……」
「ああ、彼女だったら『もう来ない』よ。退院前のカウンセリングでかなり精神的には安定していたから、そんな気はしていたんだ。今日の予約と次回の予約はキャンセルしといて貰えるかね?」
「だからって無断でブッチすることもないでしょう? あんなことに巻き込まれたのに、逞しい人ですねぇ? そうだそうだ、ついでです。この前の土日で広島に旅行に行ってきたんですよ」
事務員は洋瑛に菓子折りを渡した。中身は広島の名物、もみじ饅頭である。
「ああ、気ィ使わなくて良かったのに」
「いえいえ。先生が京都のシンポジウム行った時にお土産くれたじゃないですか。生八ツ橋」
「相手の大学さんが気を使ってくれてね、紙袋にギッチリ入るぐらいに生八ツ橋をくれたもので。精神科はそう人数多くないし、余り物をあげただだけだよ」
「その余り物が福だったんですよ。美味しかったですよ? チョコレートの生八ツ橋」
「そうかぁ、余ったのはチョコレートの八ツ橋だったのか。これはよかった、私はチョコレートは苦手なもので、命に関わるんですよ」
「先生、チョコレートお嫌いでしたよね? 看護師達もバレンタインにチョコ上げられないって毎年悔しがってますよ?」
「ははは…… 分かりましたよ。じゃ、次の一時の予約の松井さんが来たら連絡お願いしますね?」
「承知しましたー」
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