プロローグ 僕は人を殺したが間違ったことをしたつもりはない

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 京ノ介は烏丸通の交番勤務にて穏やかな警察官のいち巡査としての日々を何年も過ごしていたのだが…… 驚天動地の転機が訪れた。  烏丸通近くのコンビニエンスストアにて、立てこもり事件が発生したのである。犯人は店員を人質にとり、店内にて籠城。犯人は20代の若い男、手には拳銃を持っており今にも撃たん勢いだった。京都府警はそのコンビニエンスストアの正面を警察官数十人並べた壁で塞ぎ、野次馬の接近を封じ、犯人の逃げ道も封じての交渉を行うのであった。その警察官の壁の中に京ノ介はいた。  犯人はコンビニ店員を拘束し、コメカミに拳銃を突きつけながら叫んだ。 「逃走用の車と、現金でバッグに詰めた一千万円を用意しろ! 早くしないとこのクソ店員を殺すぞ!」 犯人の目は鬼気迫るもので血走り吊り上がり、口からも涎をダラダラと流していた。何かの薬物を摂取して精神が錯乱しているのだろうと、コンビニ店内に唯一入ることを許された交渉人(ネゴシエーター)の刑事は考え、それを踏まえての交渉に入ることにした。 「わかった! わかったから落ち着きなさい!」 「うるさい! 早く車と金だ!」 犯人は銃口をコンビニ店員のコメカミにグイグイと押し付けた。コンビニ店員は恐怖に震え上がり、涙を流した。 「泣くんじゃない! これ以上変なことをしたら本気で撃ち殺すぞ!? あ!?」 駄目だ、もう交渉の余地もない。このままでは人質が撃ち殺されてしまう! 交渉人(ネゴシエーター)の刑事は京都府警の会議室に繋がっているインカムを軽く二回叩いた。 〈発砲許可、願う〉と言う信号(サイン)を会議室へと送ったのだ。 犯人には交渉人(ネゴシエーター)の刑事が軽く耳を二回叩いたようにしか見えない。 インカムを二回叩いた「コンコン」と言う音が会議室内に響き渡る。すると、お偉方の担当刑事が荒い口調で述べた。 「駄目だ。発砲は許可出来ない、交渉を続けろ。犯人はイカれた薬物投与者だ、そんな相手を射殺したとなれば人権問題だ。京都府警はマスコミから袋叩きにされてしまうぞ」 市民を守る為の銃で市民を守れないとはどういうことだ。相手は銃を持っているのだから、発砲許可を出しても問題ない筈だ。そんなに警察官職務執行法が大事と言うのか!?  それとも「凶悪犯罪者にも命はある」とか()かす世論を怖れていると言うのか!? 今、目の前で銃口を突きつけられている無辜の市民をそのまま見殺しにしろと言うのか!? 交渉人(ネゴシエーター)は悔しさに顔を滲ませながら、震える声で犯人に語りかけた。 「分かった。車と金だな? 用意させよう」 だが、犯人は精神が錯乱しており、その言葉を信じることが出来なかった。
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