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「お前の名前は篠崎洋介。16歳。記憶が無いと思うので、過去の僕がお前の事についてまとめることにする」
前書きの続きには、過去の僕と推測できる人物からの情報が記されていた。
一際注意を引いたのが、何と僕には彼女がいる。記憶喪失になった僕に、今でも一緒に居てくれる大切な存在らしい。
それと記憶喪失について。原因は病気によるもので、一週間周期で毎週月曜日に記憶がリセットされる。
つまり今日が月曜日の早朝で、僕は自宅で目覚めたということだ。
「はあ、そんなことってあるのか」
かなり特異な状況に巻き込まれてしまった。
机に項垂れているとコンコン、と鈍いノック音が聞こえた。音の方向に首を曲げると、先程から気になっていた木製の開き戸からだった。
「……母さんかな」
ノートの切れ端には、僕と母さんの二人暮らしをしているという情報が書かれていた。
けれど母さんとの記憶は全く無い。つまり僕にとっては初対面だということ。
固唾を呑んで、開き戸が内に開かれるのを待った。
「おはよう、洋介」
「お、おはようございます」
や、やばい。思わず敬語になってしまった。記憶がないはずなのに、母さんに向き合うのが怖い。
萎縮する僕に柔和な笑みを零す母さん。優しく包み込んでくれる声色に安心する。
「朝ごはんがあるから、一緒に食べましょう」
事情を知っているからか、母さんは努めて冷静に対応してくれている。次第に落ち着きが生まれて、母さんの後ろを歩いて、一階にあるリビングへと向かった。
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