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眠りから覚めると、身に覚えのない真っ白な天井が瞳に宿る。何事かと思って、上体を起こして辺りを見回した。綺麗に整頓された古ぼけた一室が視界を埋め尽くす。
本棚には漫画雑誌が敷き詰められていて、クローゼットと思われる取っ手がある。そして僕は布団で眠っていたらしい。
全く身に覚えのない空間の布団で、僕は目覚めた。
「ここは……何処だ?」
ふかふかの鼠色の毛布をギュッと握りしめ、暫し熟慮した。
もしかすると、誘拐されたのか? 意識が途切れる前の記憶を探ろうとして、そこで気がついた。
何も思い出せない。直近の記憶だけでなく、過去の自分自身のありとあらゆる記憶が抜け落ちている。
「僕は誰だ?」
名前も、年齢すらも思い出せない。……しかしこのままでは埒が明かないので、一先ず部屋を観察しよう。
体は簡単に言うことを聞いて、不自由なく布団から出て立ち上がることができた。
拘束されている様子はないし、体の衰えも感じないので長時間眠っていたわけでもなく、誘拐されたわけでもなさそうだ。
部屋は薄暗くて、壁には藍色のカーテンが掛けられている。
カーテンを恐る恐る開けると、窓から朝日が降り注いだ。
思わず顔を顰めて、それからゆっくりと瞼を上げると、行き交う人々や車の姿が見下ろせる。高度からおそらく2階に位置する部屋のようだ。
クレセントを操作して、窓を開けた。心地よい朝の涼風が程よく顔を刺激する。
これで万が一の非常口となる。
次に視線を移したのはドアだ。木製の開き戸から部屋の外に出られるかもしれない。
少し躊躇って、とりあえずクローゼットと思しき扉を開ける。ひとまずこの部屋を一通り調べてみよう。
クローゼットの中は様々な私服が入っている。……僕のだろうか。
薄々勘づいていたけど、これは僕自身の部屋なのかもしれない。何か事情があって、記憶喪失になってしまったとか。
一度扉を閉めて、壁に隣接する机に注目した。一目でわかるくらい、絵を描いている人の散らかし具合だ。
絵の具や筆が散乱していて、整頓された部屋の唯一の汚点といったところか。
「ん? これは」
そこで机に一枚のノートの切れ端が、テープで貼られているのを見つけた。
箇条書きで何か書かれているようで、読んでみることにした。
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