【早乙女春樹】

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新入生だけど生徒会会計になるらしく、その件で理事長に呼ばれた。 なんで理事長なんだと思った人もいると思う。俺もだよ。 別にわざわざ顔合わせて言うほどのことがあるのか、それとも他の用があったのか、不安ばかりがつもっていく。 コンコンコン 「どうぞ」 「失礼します、早乙女春樹です」 「覚えてるー?」 「え…」 何を言われているのか全く理解できない。 だって部屋に入ってすぐ初めて会った人だと思っているのに『覚えてるー?』なんて言われたら覚えていなくちゃいけない気がするものだ。 今まで関わりを持とうとしなかったからかたくさんの人と会ったことなどないのに全く思い出せない。 色んな人に出会いすぎて、だったら分かるけどただただ忘れてるだけなのはちょっと…やばいな。 「覚えてなくて当然だから気にしなくていいよ。私はね君のお母さんのいとこ、だから従兄弟伯父、だったかな?ちょっとその辺よくわかんないけど親戚だよ」 「親戚…」 「ちっちゃかった頃はそれはそれは可愛かったよ。2人ともコロコロしててまるまるしてて、ふわふわしてたんだよ」 擬音の嵐、まるまるってなんだろう。 ていうのはどうでも良くて… 「2人…」 「あ、やべっ…」 「どういう事かちゃんと教えて貰っていいですか?」 「………そうだね、そろそろ君に伝えなくちゃいけないよね。………ちょっとショックな内容かもだけど…それでも聞く勇気、ある?」 「はい、教えてください。弟のこと。」 ・ ・ ・ 全部聞いた。 途中、耳を塞ぎたくなるような事も沢山あった。 あんなに優しかった母さんがそんなことをしていたなんて信じたくなかったし、弟がそんな辛い思いをしている中自分はのこのこ生きて。 悔しかった。 誰も、辛い思いをしないように出来なかったのか。 今更考えても意味が無いし、小さかった自分では気づくことも、行動を起こすことも出来なかったと分かっている。 分かっているけど、なんか悔しくて。 膝の上の拳は握りしめすぎて血管が浮き出てる。 それでも、この煮え立つ思いは止められなくて、力はより強くなる。 「あの子はね、今は…元気に生きてるよ。幸せだと思ってるかは、分からないけど。元気だよ」 「そうですか」 「君のお母さんのお葬式、私も君の弟も行っていたんだ」 「そう、だったんですね。すみません、気づいてなくて」 「途中で帰ったし、周りに気づけなくて当然だから気にしなくてもいいよ。」 「…弟は、俺の事…知ってますかね」 不意に思った。 俺が会いたいと思っていても、本人はなんとも思ってないかもしれないし、前の自分と同じように双子の兄がいるなんてしらないかもしれない。 弟にはどこかの人に引き取られて、今は家族のような存在がいるんだろう。 愛されてるかなんてわかんないし、幸せかも分からない。 だから、本当の家族はもう過去のことだと思われてるかもしれない。 「覚えてるんじゃないかな。 ……君は、覚えてなかったらどうする?」 「……もう、会わないようにします。」 「なぜ?」 「だって、家族がいるじゃないですか。……それに、弟は母さんに暴力をふるわれて、俺はそんなことされずに育った。俺の存在を知ったら嫌われるに決まってるじゃないですか。きっと覚えていても、俺は憎まれるしかないんですよ」 俺がそう言うと、理事長は間を開けてゆっくりと話し始めた。 「あの子は…優しい子なんだ。お葬式に行く時に一緒に来るか聞いた。行きたくないって言うと思ったけど、違った。最初は行かないって言ってたんだけどね、その理由がお母さんは自分が来ても嬉しくないからだったんだよ。本人は行きたそうにしてたし、母親のことを嫌っている様子もなかった。あんなことをされていて、それでもあの子は嫌わなかったんだよ。」 理事長は悔しそうな辛そうな顔をしていた。 けれど、その声には弟を思いやるような優しさがあった。 理事長の話を聞いて思った。 弟が自分のことを知ってようが、知ってなかろうが絶対に会おうと 理事長の眼差しと声から弟は本当に優しい子なんだと感じる。 「会えるといいね」 「はい、ありがとうございました」 弟に会う決意が出来た。 あとは見つけるだけ
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