第一話「我ら新入生」

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第一話「我ら新入生」

蓮が咲いたら ――一九四五年三月、太平洋戦争も終わりに近づいてきていたころ。この物語は、そんな時代の 千葉県千葉市のお話である。 「合格」……。  震える手に支えられた合格証明書に書かれた二文字は、間違いなくその手の主であるおかっぱ頭の少女……金城サキ(かなしろさき)の合格を告げていた。それも県内随一の女学校、蓮咲高等女学校(はすさきこうとうじょがっこう)に。憧れの学校に合格する。通常の少女であれば、それはもう何にも変え難い喜びを感じることだろう。サキもそんな中の一人であった。 「頑張ったわねサキ!蓮女に合格するなんてお母さん鼻が高いわ!」 隣に座る母親のトヨも、娘に負けないくらいの笑みを浮かべている。 「試験の後、ずっと自信がないって言っていたものだから……一時はどうなるかと思ったけど、これでひとまず安心ね!」 「これで春からも文ちゃんと通えるんだ!」 文ちゃん、もとい清崎文代(きよさきふみよ)はサキの親友で、共に蓮咲高女を目指してきた仲でもある。とはいえ、文代の方は級長を何度か務めたくらいには優秀なため、サキ程の苦労はしていないのだが。
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