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「だって級長ですもの、組の子の名前は全員覚えているわよ」
得意げに笑いながら自らの記憶力を自慢する文代の様子に、サキは先程の少女、弘子を追いかける気もなんだか失せてしまった。
――昼休み。
「結局来ちゃった……」
敏子という上級生からの手紙に書いてあった通り、学校の敷地の端の方、校舎の影になるところにある、人気の少ない場所でぼんやり待っていた。あの後、改めて「エス」の意味を聞き出そうとしたが弘子はやたら上手にサキを避け続け、文代も「さっき弘子ちゃんが言った通りじゃないの? 私に聞かれても困るわ」と言うわで結局よく分からないまま。そして文代に せっかくだから行きなさいよ、と言われるがままに来てしまった。
「暇だ……」
せっかくの空き時間、本来なら文代や峯子とお喋りに興じる筈なのに。さっきまでやっていた指遊びも飽きた。ざわざわという葉のそよぐ音の中に、女学生たちの微かなおしゃべりの声が聞こえる。あーあ、私は一人ここで何をやっているのだろうか。そんなことを考え溜息をついた、その時。
「サキちゃん……サキちゃんでしょう? 待たせてごめんなさいね!」
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