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目の前に上級生とおぼしき、お下げ髪の少女が立っていた。
「そうですけど……。あなたは……敏子さん?」
「正解! 名前を憶えていてくれるなんて嬉しいわ!」
そう言ってサキの手を取る。名前なんて、彼女のカーキー色の工員服に縫い付けられた身元票を見ればわかることだ。
「それで……時間が無いから早速本題に入るんだけど、来てくれたってことは……私とその…… 姉妹になってくれる気があるってことよね……?」
「あの、姉妹ってつまり……エスってことですか?」
「あら知ってるのね! ええ、そうよ。」
敏子は若干頬を赤らめ、照れくさそうにこちらを期待のこもったまなざしで見つめている。 さっきエス、という単語を自らの口から出してしまった以上、とてもそれがどういう存在なのかよく分かっていない、なんて言える状況ではなかった。少なくともサキにとっては。どう返事すればいいのか……サキはうつむいて目線をあちらこちらに忙しく動かしつつ、どうすべきか必死で考えていた。
「ねぇ、どうしたの……?」
ぱっと顔をあげてみると手を握ったままの敏子が、サキの沈黙の長さのせいか、不安げな表情を浮かべている。
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