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「お前たち、いいから早く逃げるぞ!」
啓蔵を先頭に、一家は庭の狭い防空壕へと逃げ込む。サキは嫌いなサイレンがなるべく聞こえないように、防空頭巾の紐をきつく絞めた。重苦しい空気の中、トヨが口を開く。
「あの……お義父さん、提案があるのですが」
「なんだ」
「こうも警報が多いと千葉も何時やられるか。東京もあんなに焼かれて……噂では名古屋や大阪もやられているそうですし……」
三月十日のあの日、東京へ向かう飛行機がトヨたちの頭の上を飛んでいき、東京の空が赤く染まったのが千葉からもよく見えたことをトヨは覚えていた。
「疎開を……そろそろ考えた方がいいのかもしれません。私の実家ならまだなんとかなるんじゃないかと……渉と茂だけでも……」
「やだ! 母ちゃんと別れたくない!」
泣きそうな声を上げたのは茂だ。
「……茂! あんまり母ちゃん困らすなよ!」
続けて渉が叱責を浴びせた。
「そうだなトヨ……。茂、お前の気持ちは分かるが……千葉だっていつ何があってもおかしくないんだよ……。」
啓蔵は優しく茂にこう言い、頭を撫でてやる。
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