桜が嫌いな理由

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私は桜が嫌いだ そういうと大抵の人は不思議そうな顔をする。 あんな綺麗なのに、とか 変わってるね、とか 日本人なのに、とか まぁとりあえず変人扱いされる。 なんだろう、押し付けがましい気がするのだ。 「ほら私綺麗でしょ」「待ってたんだよね」「見れて嬉しいでしょ」みたいな。 そう友人に言うと「被害妄想」の一言で一刀両断された。 それに桜の時期の浮かれた人間も嫌だ。 桜を理由に集まって酒を飲んではどんちゃん騒ぎ。 この時期の公園は酔っ払いに絡まれるから近寄りたくない。さらに映えだかなんだか知らないけど自撮りしてる人達にもイライラする。 いつからだろう、春になって桜の時期になると モヤモヤするようになったのは。 東京に住んでると案外春に桜を避けるのは難しい。 思いのほか結構な割合いで咲いているものなのだ。 それに大学時代も春の新歓の花見があったり 社会人になっても花見の飲み会があったり 桜が嫌いな人なんか存在しないように 当たり前に花見が年間行事に組み込まれている。 余計嫌いにもなろうと言うものだ。 そして今年もその季節が巡ってきた。 昨夜友人とLINEのやり取りの中で 桜の季節が始まって憂鬱だという話になった。 高校からの友人だったので私の桜嫌いは昔から知っている。 その友人に 「それにしても何がきっかけだったのかね」 と聞かれて確かに、と思った。 いつからこんな嫌うようになったんだろう。 自分でもわからない。 昔はこんな嫌ってなかったはず。 自分の記憶を辿るも全然思い当たらない。 まぁきっかけなんて特にないんだろう。 生理的に嫌なだけじゃないかな、 そう返信してその場は終わった。 それから数日後、仕事の外勤中たまたま 桜の木のある小さな公園の横を通ったときだった。 嫌だな、と思いながら足早に通り過ぎようとしたら 桜の木の下で恐らく小学生、3・4年ぐらいの女の子が2人楽しそうに話していた。 その場面を見た瞬間 「みくちゃんなんて大嫌い!」 脳内にフラッシュバックのように 私に向かって泣きながら叫んでる女の子が浮かんだ。 あれは…誰だ。 確かにそんな事があった。 桜の樹の下で誰かに「大嫌い」と言われた記憶 固まって動けない私に落ちている桜の花びらを ぶつけて踵を返して走っていった後ろ姿 あれは… かおりちゃん そうだ、あれは4年生の時同じクラスだった かおりちゃんだ。 思い出した。 私達は3年のクラス替えで一緒になり 同じ班になって仲良くなった。 学校はもちろん放課後もずっと一緒だった。 2年間ほぼ2人で過ごしていた。 4年生が終わるとクラス替えだ。 2人でまた同じクラスになれたらいいね。 3学期の間中その事ばかり話していた。 そしてかおりちゃんに 「願掛けしようよ!」と言われ、 喜んで私も「しよう、しよう!」と言った。 満月の夜に校庭の桜の樹の下に願い事を書いた紙と大事なものを埋めればいいらしい。 夜にこっそり家を抜け出して2人で埋める約束をしたのだった。 秘密の儀式という感じでドキドキわくわくしていた。 そして満月の夜、 私は桜の下に行けなかったのだった。 夜になって玄関付近をうろつく私に怪しんだ母親から問い詰められこの計画を白状してしまった。 案の定叱られてそんな馬鹿なことしないでさっと寝なさい、と子供部屋に追いやられてしまった。 今のようにスマホもSNSもある訳ではなく 行けないことをかおりちゃんに連絡するすべもなかった。 どうしよう、かおりちゃんずっと待ってるかも… まんじりともせず夜を明かした。 いつもかおりちゃんの家によって一緒に登校していたので次の日の朝急いで早めにかおりちゃん家に行くとかおりちゃんはもう学校に行ったあとだった。 慌てて学校に行くと桜の樹の下にかおりちゃんがいた。 走りよって近づく。 「かおりちゃん!昨日はごめん!おかあさ…」 と言いかけたとき 後ろを向いてたかおりちゃんが くるっと振り向くと真っ赤になって涙目で 「なんで来なかったの!?ずっと待ってたんだよ!!1人で真っ暗の中!!」 叫んだ。 「ごめん…お母さんにみっかっちゃっていけなかったんだよ。」必死で謝る。 「信じらんない!!みくちゃんなんか大嫌い!!」 泣きながら足元の桜を掴んで投げつけて 走っていってしまった。 その後ろ姿を呆然としながら見て立ちすくむ私。 そうか、あの記憶と桜が結びいてたのか。 あの後結局かおりちゃんとは一言も話さず (話しかけても無視された) クラス替えでも一緒にならず 小学校を卒業したのだった。 なんで今まで忘れてたのか。 理由がわかってスッキリしたような、しないような。 それからは桜を見たらあのかおりちゃんの言葉と表情を思い出すようになった。 やっぱり私は桜なんか嫌いだ。
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