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「ちょうど昨日、七回忌が終わりました」
間違いない。
私が会ったのはこの人の息子だ。信じられないけど。
「この写真を見て、ここに来ました」
私はスマホを操作し、SNSで見つけた写真を店主に見せた。
「そうですか。うれしいです。押し入れを片付けてると、息子が撮った写真が出て来たんです。あまりに美しい写真なので、村のコンテストに応募したら入賞しましてね。公民館に飾られたのです」
この写真を撮ったのも息子さん。
やっぱり、公園で会ったのは息子さんなのだ。じゃあ、幽霊……?
恐ろしさは感じなかった。気さくで、怖い感じはしなかったから。
「散り掛けの桜も美しい……」
私は、独り言をつぶやいて壁の写真に視線を向けた。
「息子が同じことを、よく言ってました」
「あの、この写真、私のスマホで撮影してもいいですか?」
「もちろん。息子も喜ぶと思います」
私はスマホで壁の写真を撮影した。
「よろしければ、その写真をバックにあなたの写真を撮らせていただけないですか?」
店主が小さく頭を下げる。
「息子がいつも言ってました。桜と美しい女性の写真を撮りたいって」
先ほど、公園で嬉しそうに私の写真を撮っていた男性を思い出す。
「はい、もちろん」
私はスマホを店主に渡し、写真の横で笑顔を作る。店主がボタンを押すとシャッター音が響いた。
「いやー、ありがとうございます。息子の夢が叶いました。もしよろしければ……」
私は店主が言いたい事をすぐに察した。
「写真を綺麗にプリントして、この店へお送りします」
店主は目を細めて会釈した。
「息子は女性と話すのが苦手でね。モデルになってもらえる人がいませんでした」
「そんなこと、なかった……と思います。とても、楽しい会話ができる人、だったんだろうなーって思います」
私の不可解な返答に、店主はハハハと小さく笑った。
* * *
食事を終えて、店を出た。
薄暗くなった空を見上げて、大きく息を吸って、吐いた。
いったい私は何を追いかけてたんだろう?
他人の力をあてにして、我を満たそうとしていた自分がちっぽけに思えた。
「桜はいつだって、美しいーーーー!」
空に向かって大声で叫んでやった。
そして、駅に向かって歩き始めた。
(了)
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