365日、いつでも美しい

2/8
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 婚活で私が狙っているのは医者か弁護士。もしくは、外資系コンサルティング会社の社員。日系会社員の給料なんて大したことはない。たとえ、大企業でもだ。  私はそれを良く知っていた。なぜなら、私は大手企業で派遣社員として働いているから。部長が「子供が大学に行ったから、飲み代が無い」とか言っているのを見るとうんざりする。  結婚するなら、不自由しないほどの収入がある人。私は心に誓っていた。  別に何億円も欲しいわけではない。ほどほどに贅沢をさせてもらえればそれでいい。  貧乏家庭で過ごしたからこんな考えになったのかな? シングルマザーの一人っ子として育った。楽な生活ではなかった。母親は私が高校生のときに亡くなった。  結局、大学には行かず就職。何とか派遣の仕事をつないでここまで生きてきた。  会社で言い寄ってくる男性は多数いたけど、眼中になし。定時で職場を出て、高所得者が集まる婚活パーティーに行きまくっている。  スタートアップの社長はパス。羽振りがいいのは一時で、倒産して悲惨な目に合うかもしれないから。  建築業もパス。性格が荒っぽそうだから。資産家の老人もパス。親族に恨まれそうだから。結果、残るのが医者や弁護士になるのだ。  自信が持てるほど容姿は良くないが、悲観するほど悪くもない。それが唯一の武器。ギリギリ使えるその武器を磨くため、決して多くないお給料を化粧品と装飾品とエステにつぎ込んた。  前に出過ぎず、引き過ぎず。巧みな駆け引きを覚えて、何人かとは付き合うことになった。しかし、結婚には至らず。  金持ちの正妻に収まりさえすれば、旦那が遊び回ろうが浮気をしようが関係ない。  こんな聞き分けの良い妻はいないはずなのに、結局うまく行かない。相手の容姿だって、ハードルを思いっきり下げている。 「四十代半ばのハゲデブに振られるなんて、マジ、信じられない」  吐き捨てるように言ってからプリントに視線を落とす。  にこやかに笑った、髪の毛の薄い太った男性の写真。見ているだけでムカムカしてくる。おまけに「満開の桜が好きなんだよね」だと~。 「お前に、言われたくない!!」  私は写真をバンバンと叩いた。 「くーーー、ほんと、腹立つ~」  私は紙を二つに引き裂いた。更に半分に、それを更に半分に破く。 「はい、さよなら~」  両手の上で細かい紙切れになったプリント。それを、ぱーっと宙に放り投げた。  申し合わせたように強い風が吹く。  紙切れは空中で桜吹雪に混じり散った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!