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「桜が満開なのは、一年で精々、一週間。割合にしてたったの2パーセント。そんな短期間にだけ着目するのはもったいない」
「もったいない?」
「花が咲いて、散って、葉をつけて、葉が落ちて、その間にエネルギーを貯めてまた翌年、花を咲かせる。この過程が美しいんです。人間だって同じだと思います」
私は「わかんない」と言って男性から目をそむける。
「いつのタイミングも美しい。そう考えたら、365日、毎日がハッピー。そう思いませんか? 年間、百何十日もあるプロ野球の中継みたいなものです」
微妙な例えに、私は苦笑する。
「そうだ、モデルになってください。桜吹雪と美しい女性。これは、きっといい写真が撮れる」
いつの間にか近くに迫っていた男性が、手を差し伸べる。私は自然なその態度に思わず手を取り、ベンチから立ち上がった。
「木の横に立って。はい、笑ってください」
男性は指示を出しながら、大きなカメラを構えた。
「もっと、ちゃんと笑ってください。はい、撮りまーす」
ビューっと風が吹いて桜の花びらが舞い散った。そして、シャッター音。
男性はカメラの裏の画面で写真を確認する。
「おっと、これは、奇跡の一枚が撮れちゃいました」
私の方へ無邪気な笑みを向ける。
そんなことを言われると気になってしまう。私は男性に近づいて「見せていただけますか?」と尋ねた。
「もちろん、お見せしますが……本当に見ます?」
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