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「だって、奇跡の一枚なんでしょ」
男性がカメラを裏返して、背後の画面を私に向けた。
「こっ、これは!?」
「だから、奇跡って言ったんです。桜の花びらが重なって、お姉さんの両目が隠れちゃってますね。ププッ」
男性は噴き出しそうなのを堪えているようだ。
「もう! 何が奇跡なんですか!!」
「これって、極めて低い確率です。撮ろうとして撮れるもんじゃないですよ」
私はカメラを両手に掴んで、改めて画面をのぞき込んだ。
「ふ、ふふふ」
お腹の底から、笑いが込み上げてきた。
「これ、何かの犯人じゃない。黒線じゃなくて、桜で目を隠された」
私は大声を上げて笑った。お腹が痛い。
「いいですね。その笑顔。それですよ。さっきは目が怖かったです。桜がそれに勘づいて覆い隠してしまったんじゃないでしょうか。もう一枚、撮りましょう!」
私は促されるまま、桜の下に移動する。
肩の力が抜け、リラックスしている。男性の「笑って~」の声にも、自然な笑顔を向けることができた。
シャッター音のあと、男性は画面を確認する。
「いい写真が撮れました。これ、コンテストに応募してもいいですか?」
「えっ……ええ。いいですけど」
突然の申し出に少し戸惑う。
「記念にその写真いただきたいわ。後で送ってくださいます? メールアドレスを教えておきますので」
「メールはやっていません」
「じゃあ、何かのSNSアカウントを……」
「SN……って何ですか?」
SNSを知らないの? 化石みたいな人……と思ってしまう。
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