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速足で山を下り、村を抜ける。
バスもなく、タクシーなど拾えない田舎。電車は一時間に一本しかない。
駅までそう遠くないあたりで、歩くスピードが急に低下した。ぐーー。お腹が鳴る。
「やばっ、何か食べなきゃ」
コンビニは当然ながら見当たらない。ふと、何か食べ物の香りがした。私はキョロキョロする。
「もしかして、食堂?」
通り沿いに、古びた食堂を発見。何でもいいから食べよう。電車は一本遅らせればいい。
私はくたびれた暖簾を掻き分け、店に入った。
「いらっしゃい」
出迎えたのは初老の男性。店主らしい。四人席がいくつかあるだけの小さな店。客は私だけ。
私は席に着いた。出された水を飲むとすこし落ち着いた。メニューに目を通す。うどんと丼を出す店らしい。
手を上げ店主を呼び、ふと壁に目をやる。
「あれ、これ?」
壁には額に入れられた写真が複数飾られていた。私の真横に掲げられていた写真には桜の木が写っていた。
風に舞う桜吹雪。ちょうど今が散りかけだから、前年のものだろうか?
「これって、山の公園の……」
「ええ。息子が撮った写真です。綺麗でしょ」
息子!?
さっき、公園で会ったのはこの人の子供だったのか。私が驚いた顔をしたためか、店主が不思議そうに首を傾ける。
そうだ、息子に連絡をとってもらおう。あの奇跡の写真は手に入れたい。遠まわしに頼んでみることにする。
「息子さんって、プロの写真家なんですか?」
「いいえ、素人です。コンテストに応募をしてましたが、なかなか採用までは」
じゃあ、仕事をしながら趣味で写真を撮ってるということか?
「差し支えなければ、息子さんに連絡を取りたいんですけど」
「はい?」
店主が目を丸くした。
「先ほど公園で、写真を撮ってもらったんです。それを頂きたいなあと」
店主はじっと私を見て、数秒間、沈黙した。
「息子は亡くなりました。六年前のことです」
「へっ!?」
絶句するというのはこのことだ。
亡くなった? じゃあ、別人だったのか?
「息子さんって、どんな感じの方でしょうか?」
「大きな事故に合いましてね。それが原因で亡くなりました。頭にも大きなケガをしまして」
――そんなことって! じゃあ、私が会ったのって!?
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