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365日、いつでも美しい
――満開だと思ったのに、散りかけてんじゃん!
それが最初の感想。わざわざ、こんなド田舎まで来たのに。
小高い山の上にある公園。手すりからは村が一望できた。公園と言っても、一つも遊具がないただの広場。
その中央に一本の桜の木が立っている。太い幹が天高く伸びている立派な桜だ。
大きなため息をついてから、ベンチに腰を下ろした。バッグからスマホを出して写真を表示する。
大きな桜の木が写った写真。私は目の前の木と見比べる。
間違いない。この木だ。違う点といえば、写真の中の桜が満開であるということ。
SNSで見かけた写真。誰かが、どこかの写真展で飾られていた写真を撮影してアップしたもの。私はその美しさに目を奪われた。色々と調査した結果、この場所を特定したのだった。
周囲を見渡すと、ペットボトルや紙パックが落ちている。ここで、桜祭りでもやったのだろう。
「みんな結局、満開の桜にしか興味はないのね」
思わず独り言がこぼれた。
ペットボトルのお茶を取り出して一口飲む。
バサッ。
ホッチキスで止めたプリントが地面に落ちた。
私は舌打ちをしながら、それを拾いあげた。プリントには顔写真が印刷されている。その下にはプロフィール。
「こんな、ハゲデブのくせに……」
周囲に誰もいないのをいいことに、紙に向かって罵声を浴びせた。プロフィールには『医者』と書いてある。親は代々続く病院の院長。
これは、婚活サービス会社から送られてきたもの。
年齢は私より一回り上の四十代半ば。何度かデートを重ねて、いい感じまで行ったと思ったのに……。
最後に言われた言葉を思い出す。先週の日曜日、別れ際。
――僕、散りかけの桜じゃなくて、満開の桜が好きなんだよね。
思い出すだけで吐きそうだ。ヤツが言いたい事はすぐに分かった。
私のことを「散りかけの桜」に例えたのだ。ハゲデブでもいいと、妥協してやったのに。
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