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1杯手に取り、もう1杯は自分の向かいに置いた。
私、お酒飲めるようになったんだよ。
日本酒よりビール派だけど、一緒に日本酒飲んであげる。
「乾杯」
誰にも聞こえないくらい小さな声で言い、グラスをぶつけるように掲げると、向かいに置いた触れていないグラスの表面が波打った気がした。
おかわりの親子丼の具は卵がとろとろで、今度は三つ葉は添えられていなかった。
三つ葉だって今は食べられる。
うさぎの絵柄の皿は、随分前に割れてしまった。
今日があの夏でも、今年の夏のままだとしても、変わらないこと。
「ありがとう。美味しかったです」
いつも美味しくて、いつも温かかった。
ひかりの声に、店主は恥ずかしそうに笑った。
湯気の中で、右手をあげて。
「お酒は今日までですね」
「え?」
若い店員がほら、と店主をよく見るように促す。
その左腕には、雲のような柔らかい湯気に包まれた赤ん坊が抱かれていた。
「次の春が楽しみですね」
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