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「いらっしゃいませ。こちらのお席にどうぞ」
暖簾をくぐると、若い男性がお冷を手にして笑いかけた。
カウンターは埋まっていて、数人の男女が座っていた。
ひかりは店の奥のふたりがけのテーブルに案内される。
「お食事をお持ちするまで少々お待ちください」
「あの、メニュー表とかは?」
「はこぶね亭は、親子丼しかメニューにないんです」
驚くひかりに、店員は慣れたように答えた。
「親子丼専門店、と店先に書いていないものですから。失礼しました。
あっ、卵や鶏肉など、苦手でしたか……?」
しゅんと眉を下げる姿に、ひかりは慌てて首を振る。
「いえ、親子丼好きです。お願いします」
「かしこまりました!お待ちください」
ぐるりとカウンター席を見回すと、たしかに全員が親子丼を食べていた。
壁にも、「親子丼」と達筆に書かれた半紙が1枚貼ってある。
8月中旬の夏真っ盛りだが、店内はキンと冷房が効いていて、お香のような匂いが微かにした。
冷たいものばかり食べていたから、たまには熱いものを食べるのも身体に良いだろう。
最近は専門店が流行っているし、はこぶね亭もその流れに乗っているお店なのかな。
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