不思議なお食事処

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ひかりはおじいちゃんっ子だった。 両親は共働き、祖母は孫に興味が薄く、祖父だけが幼いひかりをよく構ってくれた。 夕飯を振る舞ってくれた回数が一番多かったのも祖父だった。 「おじいちゃんのおかずもあげようね。たくさん食べてください」 そう言って自分の食事からおかずだけをひかりに分けてくれていた。 祖父は残った白米だけを食べて、心底嬉しそうに笑っていた。 彼の趣味は習字で、ひかりが小学生の頃は一緒に「光」という字を墨と筆で書いて遊んでいたものだ。 師範の腕前もあるのに、ひかりの歪な文字を「おじいちゃんはこんなにのびのびした字は書けないよ。大したものだ」と褒める。 そんな祖父は、ひかりが高校生になった頃に亡くなった。 ひかりが自分の手を離れた時期を見計らったようなタイミングだった。 お盆にお墓参りに行った時、 「生きて迎えるお盆はこれが最後だろうなぁ」 と静かに微笑む姿に 「そんなこと言わないで」 となきべそをかくひかりを見て哀しそうな顔をしていた。
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