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工場の最寄駅に着き、私たちはああでもない、こうでもないと買い物をする。
「あ、ティッシュ買いましょ! 絶対、誰か酔っ払ってビールこぼしますよ」
私はバラ売りの箱ティッシュをカートに入れる。
「お前、荷物増やしすぎ。酒だけでもかなりの量になるんだぞ」
桜咲さんが呆れた声を上げる。
「大丈夫ですよ。重いお酒は私がコロコロ運ぶので、それ以外のものは桜咲さん、お願いしますね」
私がそう言うと、桜咲さんにコツンと拳骨を落とされた。
「お前、自分がさも大変なことを引き受けてやるみたいな言い方するな。カートを引いてく方が楽だと思ってるくせに」
「へへっ」
私は笑ってごまかす。
私たちは、ビールやチューハイなどのお酒と共に、おつまみになりそうなお菓子やお惣菜、お腹に溜まりそうなおにぎりやサンドイッチなどを大量に買い込んで、クーラーボックスに入れた飲み物と段ボールに詰めた食べ物をカートにくくりつける。
すると、カートは、私が想像していた以上に重くて、歩道のちょっとした段差に車輪を取られてうまく運べない。
「くくっ、ほら見ろ。貸せ」
そう言うと、桜咲さんは、左手に買い物袋を持ち、右手でカートを引きながら、歩き始める。
「あ、じゃあ、袋は私が持ちますよ」
私はそう言うけれど、
「いいから、お前はそこでなんかしゃべってろ」
と、どうでもいいことを命じられてしまった。
「しゃべることなんて、ありませんよ」
私は、思わず口をとがらせる。
結局、私はいつも通り、桜咲さんにとってはどうでもいい話を思いつくままにしゃべり続ける。
そうして、20分ほど歩いて、ようやく工場に到着した。
工場では、先に出た若手の男性3人のうち、新人田口くんだけが、なぜかブルーシートの周りをぐるぐると走っている。
「お疲れ様。ねぇ、何してるの?」
私が尋ねると、
「寒いから、走って体を温めてました」
とスーツに革靴で走りながら、田口くんが答える。
「ああ!」
答えを聞いて、私は苦笑する。
恒例の夜桜見物に慣れている私たちは、寒いのが分かっているから、昼間晴れていても、コートを着てくるが、新人くんはそれが分からないから、昼間の気温に合わせて薄着で来てしまったのだ。
「向こうの自販機におしることかコーンスープが売ってるよ」
私が教えてあげると、田口くんは一瞬、嬉しそうに目を見開いて、「行って来ます」とそのまま駆けて行った。
そうして、田口くんが戻って来る頃、わらわらと同じ部署のメンバーが集まって来た。
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