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3年前
私は、学生時代から、同級生の水守 勇気と付き合っていた。
友人たちからも公認の仲で、一番早く結婚するだろうと言われていた。
大学を卒業し、慣れない会社勤めでお互い疲弊していたけれど、少ない時間を見つけては、デートを重ねていた。
そして、私には何でも相談できる親友がいた。
仕事のこと、友達のこと、勇気のこと、些細なこともみんな彼女に相談していた。
転機が訪れたのは、入社して1年半ほど経った頃だった。
私は、長期出張で3ヶ月ほど福岡へ行くことになった。
「こういうのって、独身だから飛ばされるのよね。結婚して主婦業をしながら働いてれば、長期出張なんて回ってこないもん」
そう愚痴をこぼす私に、勇気は言った。
「そうだな。じゃあ、菜乃花が帰って来たら、結婚するか」
ムードも何もない、いつもの勇気の部屋でのプロポーズだったけれど、私は即座に「うん!」と頷いた。
だから、私は、福岡でひとりぼっちだけど頑張った。
頑張って、仕事をやり遂げて帰って来た。
職場でも褒められ、意気揚々と勇気に電話する。
「勇気、今日、帰って来たの。今夜、会える?」
けれど、勇気の反応は期待したものとは違っていた。
「……ごめん。今日は仕事で遅くなるんだ。また今度」
私は、会えないことにがっかりしたけれど、仕事なら仕方ないと引き下がった。
「明日は?」
「明日もちょっと……」
「今、忙しいの?」
「……うん」
「分かった。週末にする。仕事頑張って!」
そう言って電話を切る。
けれど、週末に連絡しても、勇気は、両日とも休日出勤で会えないと言う。
だから、私は、土曜は久しぶりに部屋を掃除し、日曜は親友のところへ相談を兼ねて福岡土産を渡しに行った。
彼女のアパートへ行き、玄関の呼び鈴を鳴らす。
LINEに既読が付かないからそのまま来ちゃったけど、いるかな?
すると、中から声が漏れ聞こえる。
「ごめん! 宅配の再配達だと思うから、出て!」
あ、来客中? 彼氏かな?
いつのまに恋人が出来たんだろう?
だったら、話はまた今度にして、お土産だけ渡して帰ろう。
そんなことを考えていると、ドアがガチャリと開いた。
「えっ、なんで……」
「あっ!」
言葉を失う私の前で驚いているのは、休日出勤してるはずの勇気だった。
Tシャツにスウェット、髪は寝癖で跳ねたまま。
昨夜からここに泊まっているとしか思えない出立ちだった。
徐々に状況が理解できて来ると、怒りが沸々と湧いて来る。
「どういうこと?」
私は、必死で怒りを抑えて、声を荒げることなく尋ねる。
「いや、これは……」
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