12話 美砂さんが激おこです

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12話 美砂さんが激おこです

 悔しそうな猿は置いておいて、公爵領で麻薬を売っていた商人の情報を聞くことにした。 「それで、手紙にも書かれてたようだけど商人の情報は?まあこの領でも随分侵食されているようだけど」 「それは、言えん……」 「なんでですか!?」  辺境伯が断ったのを聞いて、美砂が声を荒らげる。 「魔石の件で損害を被ったんや、これ以上の被害は出せん」 「今既に被害が出てるんですよ!?領民を守らなくていいんですか!?早く止めないと!」 「別に今は被害なんて出てへんやろ、頼んでもおらんことされても、お金は払われへん」 「お金なんていらないよ!」 「お金なんて、やと?」 「そうだよ、僕たちはお金が欲しくてやってるんじゃないよ!」 「そうですか……。ほなさっきの比率を五対五にしてもらいまひょか?」 「そしたら教えてくれるんだね!?」 「美砂様!」  俺もそろそろ限界ではあったが、先にエリーズが割って入った。 「美砂様、この方はさっきの失敗を今取り返そうとしているだけですわよ」 「それでも!情報が手に入るならやらないと!」 「美砂様がどうしても領民を助けたいのは伝わりましたわ。でも、どんな情報を持っているかもしれないのに、何でも与えてはいけませんわ」 「でも、商人の情報を持ってるって……」 「言っておりません。この方は、麻薬商人の情報を持っているなど、まだ一言も言っていませんの」 「え?」  美砂は信じられないといった様子で、エリーズから辺境伯に視線を移した。 「なんや!全部バラしおってからに、後ちょっとやったがな〜」  深刻そうな顔をしていた辺境伯は、観念したかのように元の様子へ戻った。俺も気が付かなかったけど、今までのはどうやら演技だったみたいだな。 「え……。じゃあ、本当に商人のことは知らないんですか?」 「ああ、知らん知らん。探したいなら勝手に探してや〜」  何か虫でも追い払うように手を振り、会話を終わらせた。  辺境伯の屋敷から外に出たが、美砂は未だ怒り収まらずといった様子で、唸り声が聞こえてくる。 「お待ち下さい」 「なんですか!まだ用があるんですか!」  追いかけてきた執事に美砂が八つ当たりしている。大変珍しい光景だが、それほどイラついてるのだろう。 「私は執事のシャルルと申します。主のことは申し訳ございませんでした」 「それで、何か用があるのでしょうか?」  美砂が怒っており、冷静な会話が難しいと判断したのか、エドモンから改めて質問した。 「商人の情報を持つものに心当たりがございます」 「なるほど。教えて貰いたいですが、何か条件がおありですか?」 「ええ、麻薬商人を捕縛するまでで構いませんので、私も同行させて欲しいのです」 「そういうご希望ですか、オサム殿どうしますか?」  ふむ、辺境伯の目的はなんだ?  無料で領内の問題を解決して貰いつつ、関係者を寄生させることで自分たちも関与したことにしたい、というのが良いパターンか。  麻薬商人が辺境伯の指示あるいはそれに類するもので、口を割る前に商人を暗殺することで有耶無耶にしたい、というのが悪いパターン。  あるいはその両方も有り得るか。隙を見て俺たちに害をなすことも考えられる。さて……。 「いいぞ。ただ、魔物に出会った時などに戦えるのか?」 「ええ、執事として主をお守り出来る程度には戦えます。具体的には、Cランク魔物のオークを単独で倒せる程度でございます」 「ほう、エドモンと同じくらいかな?」 「かも知れません、移動時の休憩中にでも一度立ち会ってみるのがいいかも知れませんね」 「分かった、では保険として『メフシィ辺境伯指示の元、執事シャルルを同行させることになった』とランバート公爵へ手紙を書く。それでいいか?」 「用心深さは美徳でございます。そちらで一向に構いません。それから、名前はシャルルとお呼び下さいませ」  すぐに手紙を書き、シャルルの心当たりを教えて貰った。 「酒場にいる方が見知らぬ黒い服の商人を見たと言っておりました。その方は冒険者のオン様というそうです」 「冒険者オン、か。夜までまだ時間はあるし、各自で行動して夜になったら泊まっている宿屋に集合するか」 「分かったよ」   「分かりましたわ」   「分かりました」   「かしこまりました、では熊井殿に一つだけ。先程の魔石の契約で、初回の振込みが完了しているかと思います。よろしければご確認下さい」 「振り込んで?」 「銀行をご存知ありませんか?」 「え、銀行あるの?」 「銀行自体を知らないというより、どこにあるのか知らないということでしたか。教会に行ったことはございますか?」 「教会か、そういえば無かったな。だけど、行ったことないのに俺の口座はあるのか?」 「身分証を持っている方は口座も自動で作られております。身分証を教会で提示すればお金を引き出せますよ」 「へええ、教会はどこの街にでもあるから銀行にはうってつけなんだろうね」 「確認をしておいて頂けると助かります」 「分かった。じゃあ俺は教会に行ってくるよ」 「僕も一緒に行こうかな!」 「じゃあ行こっか」    教会は街の中央付近にあり、背の高い建物なので、迷わず到着できた。  建物全体が白やグレーの総石造りで、建物の頭は尖塔が多く見られ、真ん中から外側に向け段々低くなってるため、中央の一番高い尖塔がとても強調されている。  中に入ると、大理石で出来た巨大な石柱が高くのび、天井まで五十メートルはあるだろうか、空間の広さが際立っている。  一枚板ではないが組み合わせて大きく見せるステンドグラスが壁中に張られ、降り注ぐ陽光によってとても神秘的な空間に感じられる。  おのぼりさんの様に辺りを見回していたためか、入口付近で聖職者らしき人に声をかけられた。 「礼拝ですか?」 「いえ、銀行に用事がありまして」 「そうでしたか。お連れいたしますね」  奥の個室のような場所へ連れて行かれた。 「では、身分証をご提示下さい」  身分証を渡し、聖職者らしき人が更に奥に引っ込むと、誰かを連れて戻ってきた。 「熊井様、初めまして。私はジェイコブ・ムーアと申します。司教をしておりまして、この地域の教区長でもあります」 「どうも初めまして。あまり教会の役職に詳しくないのですが、司教様はお偉いのではありませんか?」  案内してくれた人の比べて、明らかに着飾っている。 「教会内では立場は高い方かと思います。私共のトップは教皇から、枢機卿、継いで教区長となっております」  詳しく聞くと、どうやら助祭、司祭、司教、教区長と立場が上がり、案内してくれた人は助祭らしい。 「それで、その教区長様がどうしてこちらに?」 「銀行への御用と伺いました。お金をお引出しなさるご予定ですか?」 「えっと、何か問題があるのでしょうか?」  銀行なのに引き出しを渋るのか?それじゃあ銀行として成り立たないじゃないか。 「そうですね、少し問題が生じてしまうのですが、まずは通例通り残金をご案内しましょう」 「ええ、お願いします」 「熊井様の引き出し可能額は、大金貨二百五十枚と金貨三枚です」 「ん?」 「ええ、大金貨二百五十枚でございます」  二回言われた。    確か大金貨一枚で物価的には日本の一千万円くらいの価値があったよな?つまり……、二十五億円!? 「え!?なんで!?」 「詳しい理由は把握しておりませんが、何でも付与魔石の販売料だとか、この地の領主様から振り込みを承っております」 「そうですか、そんなお金になるんですか」 「それで、大変言い難いのですが、一度に全て引き下ろされてしまいますと、教会の運営にも支障が出かねないのです」 「そんなに下ろしませんから安心して下さい。とりあえず金貨一枚と銀貨十枚、程度貰えますか?」  皮袋に入れてもらって受け取ったが、これだけでも百十万円相当になる。 「大金持ちだね、どうする?」 「そうだな、故意でなくとも大量のお金を得てしまったんだ。何かに使って経済を回す義務が出てくるなあ」 「確かに、個人で溜め込みすぎるのは良くないよね。経済は太くするのが基本だもんね」 「まあ元々、メフシィ辺境伯との取り分を八対二にした理由は、二割程度を街の美化に回すつもりだったんだけど、それでもかなり余るね」 「それに、初回の振込って言ってたよね?」 「そうなんだよな。娯楽もないし、衣食住も揃ってる。困ったな、あっ、もちろん半分は美砂の物だからね?」 「ありがとう、でも僕も困ってないからオサム君が必要な時に使っていいよ。欲しい時は言うよ」  使い道を考えながら部屋を出ると、祈りを捧げている人がいたため様子を見てみた。  ふと、理由などないが何となく魔力視をしてみると、祈っている人から魔力が抜かれ?聖像に吸い込まれていくのが見えた。 「魔力が抜かれてる?」 「え?あ、ホントだ」    人は祈りによって魔力を抜かれている?  そういえば獣人は生まれながらに魔力を捧げ、強力な身体を得る代わりに魔法が使えないと聞いたな。  女神は魔力を欲しているのか?  何か閃きそうなことがあるのだが、どうしても出てこないので、歩きながら考えを整理することにした。
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