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14話 遺跡は魔物が沢山です
翌日の昼過ぎ、ヘパイストス第三遺跡へ到着した。
遺跡を見ると、遺跡然といったところは無く、岩山を削って作ったような、入口がやけに広い洞窟のようだ。
入口は縦横四メートルほどあり、人が手を広げて二人並んでも余裕で通れる広さになっている。
「なんで入口がこんなに広いんだ?どう見ても人間向けじゃないよな?」
俺は疑問に思い、エリーズに質問する。
「ええ、中にはゴーレムがいて外敵から遺跡を守っていますの。Aランク相当の力があると見なされていますので、攻撃してはなりませんわよ?」
「しないよ、俺は別に戦闘狂じゃないから」
「え?」
「え?」
「え?」
美砂、エリーズ、エドモンが驚いたことに、俺も驚いてしまう。
「え?」
クスッと笑いながらシャルルが説明してくれる。
「熊井殿は道中、とても楽しそうな顔をされて魔物を狩っておりましたし、私もてっきり戦うのが好きなものかと思っておりました」
「あなた、なかなか柔らかい表現をなさいますわね。たしかに楽しそうでしたが、あれは凶悪な顔といいますのよ」
「ええ、まさに鬼神のごとし。ルウ師匠の修行を思い出します。彼女が我々に稽古をつけるときは、オサム殿と同じ顔をしていますね」
「うん、そうだね。ルウちゃんとオサム君が戦ってるときは二人で同じ顔してたよ」
え、俺ってあんな餌を見つけた猛獣みたいな顔して魔物と戦ってんの?これからは表情筋にも気をつけよう。
さて、遺跡の出入口は一つだそうだし、遺跡の付近には魔物も散見される。ちょうどいいので、改めてそれぞれの力を見せて貰うことにしよう。
「シャルルには、道中出来なかった腕試しを見せて欲しいと思う」
「ええ、分かりました。どうすればいいでしょう?」
「少し遠いけど、ちょうどあそこにオークがいるから、アレを倒して貰おう。アイツだけこっちに呼びつけたいんだが……」
「ええ、ですが遠いですよ?魔法で届きますかね?」
「ふむ、まあ俺の出番かな?」
「なんで!?」
「いや、石を投げれば気づくだろう」
美砂が驚いているようだが、程いい大きさの石を見つけ、オークに投げつけた。
「『パンッ』ピギャーッ!」
「絶命しましたわ」
「絶命しましたね」
爆発したような風穴を腹に開けて倒れたオークを見て、エリーズとエドモンが冷静に解説する。
「ちょっと力を入れすぎた、難しいな。普通に引っ張ってくる」
「えっ?」
俺は別のオークを見つけ、三メートルほどの子供の手を引くようにみんなの元へ引っ張って行く。
道中こん棒でポコポコ叩いてくるが、手加減でもしているのだろうか、当たった感触がするだけだ。
皆の前まで引っ張って来たので、シャルルに攻撃を頼む。
「よし、シャルルやってくれ」
「え、あ、はい。『クラッシュ』」
ん?オークのいる辺りに陽炎が見える気がする。不思議に思って見ていると、オークは急に白目を剥き、倒れた時には絶命していた。
「何をしたんだ?」
「事前に温めておいた空間を魔力の膜で覆い、一定の圧力環境下に置いた上で中の空気を冷やすことで体積を減らし、酸素がすぐに無くなるようにしたのです」
「へええ、凄いんだね!オサム君みたい!」
何か引っかかるな。なんだ、何が引っかかってる。一定の圧力環境下、温度、体積……。
「あの、酸素とはなんですの?」
間抜けにも、エリーズが質問をしてきたことでようやく気づいた。
そうか!
「全員その執事から離れろ!舐めた真似しやがって、シャルルがシャルルの法則を使うってのか、お前の本当の主は誰だ?それともお前自身が召喚者か?」
「え?何?どういうこと?」
美砂が疑問を投げかけるが、全員がシャルルの方を見る。
「分かりません。記憶を無くして、途方に暮れていた所をメフシィ辺境伯に拾って頂いたのです。それに皆さまを害することなどいたしません」
「もう、オサム君!すぐに人を疑うのは良くないよ!」
「美砂、シャルルの法則は地球の話しだし、エリーズも知らなかった酸素という概念を知っていたんだ。ほとんど黒だぞ」
「申し訳ございません。ものの名前や魔法などは覚えているのですが、昔のことなどは思い出せず……」
「ほら、過去に何かあったかも知れないけど、今のシャルルさんは大丈夫だよ!」
「エドモン。念の為、頼まれてくれるか?」
「ええ、私の命は二人のためにあります。私が見張っていますので、ご安心ください」
「もう!警戒しすぎだよ!ごめんね、シャルルさん」
「いえ、警戒は当然かと思いますので、気にしませんよ。なんだかこの遺跡には来なければならなかった気がするのです。連れてきて頂けているだけで感謝しています」
なんだか微妙な空気になってしまったが、美砂が慌てたように話題を変えてくる。
「あ、そ、そういえばオサム君!さっきオークに叩かれてたけど、何ともないの?」
「そうですわ、オークの一撃をまともに喰らえば普通死んでしまいますわよ!」
「いや、手加減してたんじゃないのか?触られた感覚しか無かったな」
「魔物が手加減をするわけないじゃないですか。それに、こん棒でオサム殿を殴ってる音は結構大きかったんですよ?」
「じゃあ身体が硬くなってるんだな。エドモン、ちょっとずつ力を込めて剣で切ってみてくれ」
「はい?」
「ん?ああ、腕を出すから腕にしようか?」
「いやいやいやいや、違いますって。身体だと切るのに抵抗があるとかじゃなくて!私にオサム殿を切れと言うんですか!?」
「何言ってるのオサム君!」
「流石にそれは頭がおかしいですわ!」
「え?オークで大丈夫だったなら、どこまで大丈夫か実験したいだろ?俺だって痛くない範囲がいいぞ?」
「く、狂ってますわ」
そんなにか?え、普通だと思うけど。仮説と検証は大事だろ、自分の命がかかってるんだし。
「まあ、やってくれ」
「ち、ちょっとずつですからね」
何撃目かを腕で受ける。周りは唖然とした顔でこちらを見ており、エドモンも段々に力を入れてきている。
そして明らかに金属と金属がぶつかり合うような音がしてきた所で、エドモンが剣を止めた。
「Bランク魔物を切ったときと同じ感触です。つまり、このまま続けると剣が折れてしまいますので、ここで終わりましょう」
腕を見ると、最後の方に切られた所がほんのり赤くなっているような気がする?なるほど、武器を恐れる必要がないのは重畳だな。
「オサム君はなんていうか、本当に人間の枠から飛び出しちゃったんだね」
「これって、もしかしてオサム様が勇者だったということも考えられませんこと?」
「いや、私も聞きましたが勇者は魔法を使えるはずですし、剣が得手だと」
「そうですわね、全く同じとは限りませんが、確かにかけ離れてはおりますわね……」
もう一々反応しないことにした。皆の分析が終わったら、遺跡の中へ出発しよう。
「よし、じゃあそろそろ行こうか。魔物は心配ないが、人間が襲ってくるかもしれない、だったな?」
「ええ、魔物が紛れ込んでもゴーレムがすぐに排除してしまいますから。商人の手先などに注意ですわ」
「分かった、全員に簡単な身体強化をかけておくから、不意打ちくらいなら無傷でやり過ごせるだろう」
「ひ、人の魔力を勝手に使うなんて、普通出来ませんのよ?」
エリーズは最後までヒクヒクしていたが、俺たちは気にせず遺跡の中へ入っていった。
遺跡の壁には、松明のように空間を照らす魔石が等間隔で設置されているのだが、広さが勝っているのか薄暗い。四メートルサイズのゴーレムが歩いて通れる広さで、人間向けでないと考えれば当然だろうか。
「変、ですわね」
「変ですね」
「変?」
「ええ、ゴーレムがおりませんし、チラホラ魔物がおります」
「確かに、魔物はいるな」
遺跡はラノベなどでよく見るダンジョンのようなものを想像していたが、迷宮のようなものではなく、ただの一本道だ。
一番奥の部屋が祭壇になっているようで、その手前の脇道にもちょっとした広間があるそうだ。
麻薬商人が隠れるならどちらかだろうと予想している。
「ヒ、ヒィィィ!た、助けてくれー!」
恐らく奥の祭壇から、俺たちの元へ大きな悲鳴が届き、そのまま遺跡の中に響き渡る。
俺たちは顔を見合わせ互いに頷き、走って一直線に祭壇の間へ向かった。
そこには、こん棒を持った怪物が四体と、その怪物に足を掴まれた黒い服のオッサンがいた。
「オーガッ!それも四体、ゴーレムは!?」
エドモンが慌てたように声を出す。
アレがオーガか、小さめなマンションサイズのボディビルダーって感じだな。これでBランクって、AランクとかSランクはどうなるんだ?
オーガから視線を切り替え、俺も辺りを見回すと、岩の残骸のようなものが部屋の隅に何ヶ所も転がっている。
エドモンも同時に気づいたのだろう。
「有り得ない、オーガ四体でゴーレムが全滅!?これは危険です、引き返しましょう」
引き返す?なんてもったいないことを言うんだね。
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