15話 オーガ伝説の始まりです

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15話 オーガ伝説の始まりです

「オサム殿、その顔は……まさか?」 「確かに危険なのかもしれないが、重要参考人を失う訳にいかないな」  思ってもいないことが自然と口から出る。まるで意思でも持っているかのように、勝手に口から出て消えていった。 「商人をみんなに渡す、アイツを連れて外で待っていてくれ」 「僕も残るよ!」 「ダメだ、俺と同格の魔物だとしたら守りきる自信もないし、邪魔になる可能性の方が高い」 「で、でも」 「エリーズ、頼む」 「ふぅ、分かりましたわ」  俺は身体強化を強め、商人を捕まえているオーガへ接近する。 「ヒ、ヒィィィ」  商人が俺を見て悲鳴をあげる。あっ顔か?表情筋に気をつけるんだった。  俺は穏やかに、菩薩のように、全てを包み込み浄化するような顔を心がけ、飛び込んでオーガの腹を殴る。  オーガが落とした商人をキャッチするため集中していると、生暖かい液体が顔にかかり、不快感が込み上げてくる。  オーガが血でも出したのだろうか、服が血のようなもので赤く染まってしまった。  俺はグッと表情筋を堪え、なんとか穏やかな表情のまま落ちてきた商人をキャッチし、仲間の方へ投げつけた。 「ヒッ、た、助け、助け、ば、化け物、化け物が」  完全にテンパっている商人に仲間は同情の視線をやっている。  そんな仲間を見ていると、右肩甲骨辺りに大きな衝撃を受け、一瞬のうちに横の壁へ叩きつけられた。  痛い、痛いなあ。  今度は口角を止められなかった。  振り返ると、先程殴り飛ばした一体も起き上がる。どうやら不意打ちの一撃ではダメなようだ。  まあ表情筋を意識し過ぎて力も入らなかったのだが……。  初めて暴力ウサギと対峙したときのようだ。心地の良い緊張感の中、歩いてオーガの元へ向かう。   「お待たせして悪いね、始めようか」  正面のオーガの鳩尾を膝で蹴り上げる。かなり硬いが悶絶しているので、効いてはいるようだ。  トドメを刺すために、下がった後頭部を上から両足で踏み潰そうと飛び上がったが、横にいたオーガのこん棒が迫ってくる。  吹き飛ばされるのを避けるため、そのまま棍棒にしがみつく。今気づいた、こん棒俺よりもデカいぞ。  抱きついたままこん棒を鯖折りにして着地すると、改めてオーガの体長を確認する。  全長はおよそ五メートル、こん棒の外周は抱きついた感じ百五十センチほどだったが、あの腕はこん棒の直径の倍はあるな。つまり腕の外周は、三百センチか。  純粋な腕力単体でも人間の十数倍だな、筋肉の質も違うだろうし、体重を込めたらもっとだ。  ふう、落ち着くとどうしても分析を始めてしまう。腕力が何倍だろうと攻撃が通るんだ。あとは殴ってから考えよう。  圧倒的な暴力があれば大抵のことは解決する、だったな。 「すまない、また待たせたね。今度は終わりまで楽しもうか」  四体のオーガと踊るように自分をぶつけ合った。  もうどれほど戦っていたろうか、とても短い時間のようにも感じる。一体、また一体とオーガが倒れていって、終わりの時間が見えてきてしまった。  一体は、ベコベコに凹んでしまったこん棒で上から殴りかかってくる。俺はそのこん棒を腕で受け、俺の胸の高さにある膝にハイキックを入れる。  オーガの膝が折れ、鳴き声を上げて崩れ落ちるが、倒れてくる勢いを使って上から肘をぶつけようとしてくる。  俺はそれをギリギリで避けると同時に、少ししゃがんだ状態から全力のショートアッパーを顎にぶち込んだ。  あと一体。  今まで暴れたせいだろう。遺跡がミシミシと音を立てて崩れ始めているような気がする。  だが最後だ、このままでは勿体ない。少しだけ全力をだそう。  俺はオーバーライドを発動した。 「付き合ってくれてありがとうな」  最後のオーガにお礼を言い、オーガの顔に真正面から右ストレートを叩き込んだ。  オーバーライドを解除し入り口に戻ろうとしたのだが、遺跡は既に大きく崩壊しており、完全に閉じ込められてしまっていることに気づいた。  どうやら思っていたよりも時間がかかっていたようだ。  慌ててキョロキョロと脱出口がないか確認すると、最後に飛ばしたオーガによって崩れた壁の先から、封印の間への入り口が見えていた。  呼ばれている気がする……。  入口の方に行くと、石の壁に文字が刻まれていることに気づく。 『あと十年だ早くおいで、ここもやはり入れない、三つの遺跡の内角を考えると正五角形、いや逆五芒星の封印か?中心点は……』  どういうことだ?封印の間に入ろうと検証した奴がいる。中心点から先は壁が砕けていて読めないな。    それにこの字は……。遺跡が崩れ始めたのに気づき、一旦考えをやめる。  やはり俺も入れないのだろうか?自分に特別感などあるわけでないが、呼ばれているような不思議な感覚はある。  半透明の不思議な壁にそっと指先を近づけると、何の抵抗もなく手が吸い込まれていく。  入れそうだな。  恐る恐る中に入ると、床一面の魔法陣が輝きだし、目の前に天使が現れた。これは天使で間違いないだろう。  純白でフワフワとしたとても柔らかそうな羽、そして肌触りのよさそうな一枚布で作られた服。身体の線は細く飛んで行ってしまいそうな儚さがあり、極めつけは頭の上に浮かぶ黄金の輪だ。なにかとても神々しい。 「異界の者よ。邪神はまだ消滅していません。眷属は邪神の復活を目論んでいるはず。世界の為に眷属を倒すのです」 「お前はなんだ?邪神の眷属?それはお前たちではないのか?ちゃんと固有名詞を使え!」 「始祖龍の牙を受け取りなさい、錬成すれば神に届く武器となるでしょう」    天使は発光したと思ったら光の玉になった。フワフワとこちらに飛んできたため、手のひらで掬おうとすると、手の上に大きな牙が出現した。肘から手の先までと同じくらいの大きさがある。  こんなの持って動きたくないが、どう考えてもイベントアイテムだし、このアイテムは捨てられません、だよな。  このイベント回収、俺じゃなきゃダメだったのか?異界の者だったらいいんじゃなかろうか?今度は美砂と一緒に入ろう。  そんな覚悟をして、封印の間の外に出ると、遺跡は完全に崩落していた。  ――*――  第三遺跡の外。(美砂視点) 「ああああ!やっぱり、助けにいかないと!」  激しく崩壊し、崩落していく遺跡を見て、僕は中に取り残されたオサム君を助けに行こうとした。 「ダメですわ!」  エリーズさんが僕の後ろから抱き着いて引き留めてくる。 「でも!オサム君が死んじゃうよ!僕の回復魔法を待ってるかもしれないんだよ!」 「大丈夫です!オサム様なら大丈夫ですわ!オーガとの闘いは美砂様も見たでしょう?」  オーガと建物の崩落とでは質量が違うと否定したかったけど、そう言うエリーズさんが震えていることに気づいた。  エリーズさんも不安なんだ。オサム君早く帰ってきて!  抵抗をやめ、エリーズさんと一緒に祈っていると、崩落する遺跡から何かが爆発するような一際大きい音が聞こえてきた。  手元から遺跡の方に目をやると、大きな岩の塊が次々と上空に打ち上げられているところだった。  大砲のような音が次々と聞こえては、音の数と同じだけ大岩は天高く打ち上げられ、地面に落ちるときには大地を破壊するような音を響かせる。  何が起きているかは分からない。でも、ソレは知っている人がやってる予感がする。  音が止んでしばらく、危険なので離れた位置から遺跡のあった場所を見ていると、地面の中から待ちわびた人が出てきた。 「オサム君!」  ――*――    封印の間から出た俺は、このままでは外に出られないので、この遺跡を破壊することにした。もう既に壊れているわけだし、構わないだろう。  とはいえ、この大きな岩をちょっと飛ばす程度では、近くにいる人が危ないかもしれない。崩落しているし、近くにいるとは考えづらいが……。念のため、大岩を高く蹴り上げてどかすことにした。  よし、ひとしきり邪魔な岩は飛ばしたし、隙間から見える空はいい天気だ。  狭い空間から空に向かって歩いているような、そんな感覚を味わっていると、美砂の叫び声が聞こえてきた。 「オサム君!」  流石に同級生の女の子に抱き着かれると少し落ち着かないものだが、心配してくれていたんだろう。頭を撫でてあげる。 「オサム様、よかったです。あの次々飛んできた大岩は何でしたの?」 「ああ、脱出に邪魔だったから蹴り上げてたんだ」 「蹴り……そうでしたの」  エリーズが遠い目をしてしまった。  はて?とエドモンの方に目をやると、知らないオッサンが三人いた。いや、一人はあの商人か? 「ヒ、ヒィィィ、ば、化け物がこっちを見て、見て……」  うん。アイツだ。助けてやったのに失礼なやつだな。  どうやら、もう一人のオッサンは近隣の貴族だったようだ。カルメル子爵といい、麻薬商人の口利きをしていたらしい。控えの間に隠れていたらしく、崩壊を察して逃げてきたところをエドモンに捕まったそうだ。  残りの一人は、麻薬商人を連行する人だそうだ。本件が大詰めだと察した公爵が、派遣しておいてくれたらしい。あの些細な手紙からここまで用意を出来るとは、なんて仕事が出来る人なんだろう。  結局シャルルは何も問題は起こさなかったが、入口付近に書かれた文字を執拗に確認していて、崩落が始まってからは一切喋らなくなってしまったとのこと。  彼にとって何か悪いことをしてしまった気がする。  そして、公爵領へ行くのなら辺境伯の領を経由するよりも直接向かった方が近いようで、俺たちはここから公爵領へ直接向かうことにした。 「それでは、私は報告がございますのでここで失礼いたします」 「わかった、シャルル疑ってごめんな。馬車は使っていいからそのまま持って行ってくれ」 「ありがとうございます」    シャルルと別れ、俺たちは罪人二名を連れ公爵領へ向かった。
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